映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2007年12月16日

『藍宇 情熱の嵐』關錦鵬

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かつて何度となく観返したこの映画を久し振りに観るのなら寒い冬にしよう、と思っていた。
夏の場面もあるのだが何と言っても印象的なのは旧正月前に再会した藍宇に捍東がマフラーを巻いてあげる場面である。
その場面でその温かさを感じたかったのである。旧正月前ならもっとよかったが待ちきれず少し早めになってしまった。

『藍宇』この作品には色んな思いが詰まっていて一口にあっさりと感想を述べることはできそうにもない。
こうして藍宇と捍東の部屋を観ていると過ぎ去った日のことを懐かしく思いだしてしまうのだ。

この映画の粗筋だけを追えばもしかしたら陳腐だと思われるのかもしれない。
それでも傲慢で身勝手な捍東を心から慕い続ける藍宇の純真な気持ちにはやはり惹かれてしまう。
そしてもう一つの魅力は昔話ではなく、文革の頃でもないかなり身近な中国の都市の情景が映し出されていることである。
そして文革後の中国都市の大きな変化が恋物語の背景に描かれていく。この情景が物語と絡んでいく様がこの作品の妙味でもある。
北京人で裕福な為にやや自堕落な捍東と田舎(東北)出身で懸命に働き勉強する藍宇の姿が対照的に描かれている。
高度成長で街中に高層建築が建てられ始める、その仕事に藍宇自身が関わっている。
捍東の浮気で仲違いした間に天安門事件が起こる(1989年6月4日)その夜藍宇を案じた捍東は銃声が響き学生達が走り回る街中を彼の姿を探し求める。
出会った時抱きしめあう二人、藍宇の泣き声が印象的である。
よりを戻した二人は郊外に建つ洋風の家に住む事になる。捍東の金持ちぶりが判る。他にも捍東がいかにも田舎じみた格好の藍宇に洋服を買い与えると「まるで日本人みたいだ」と言ってみたり、捍東がメルセデスに乗っているので「珍しい車だ」と別の青年に言われたり、二人で日本料理店(食べていたのは中華料理だったが)で落ち合ったり捍東の弟衛東が坂本龍一を聞いていたり、藍宇が借りているアパートが日本人がいた場所を安く借りれたなどその頃の中国の都会の様子が伝わってきて面白いのだ。反面、捍東の家の中国的な旧正月の雰囲気、全体にやはりまだ古めかしさが感じられるところなどが見て取れる。そういった古さと新しさが入り混じった街に興味が惹かれてならない。

自己中心な捍東は身勝手に藍宇を求め捨てる。常に金でかたをつけようとする。藍宇は一途に捍東を思い続けている「病気なんだ。こんなに好きになってしまうなんて」
捍東の我儘で何度も別れと再会を繰り返したどり着いたのは藍宇の小さなアパートの狭いベッドの上。
窓の粗末なカーテンの隙間から入り込む光の中で抱き合う二人にずっとこのままでいて欲しいと思ったのも束の間、残酷な運命の知らせが捍東に届く。

車に乗った捍東が藍宇が働いていた建設現場を訪れる。二人がいた北京の街には次々と高層ビルが建ち、街は大きく変わろうとしている。
藍宇の思い出が消えていくかのように捍東の胸の悲しみが突き刺さっている。
捍東が疾走する車から見える建設中のハイウェイ。そこに藍宇がよく歌っていた黄品源の歌が甘く切なく聞こえてくる。街並みは二人の思い出のように過ぎ去っていくのだ。

思い出の中で藍宇を抱きしめる捍東。

この物語は観る人によって涙を誘い或いは何の意味もないのかもしれない。
過ちを繰り返し、取り返しのつかないことになってしまった秘められた恋物語。
傲慢で馬鹿な男と一途過ぎて馬鹿な男の話である。
でも私には狭いアパートで抱きしめあいながら眠っていた二人の安堵にも似たその姿に目を奪われないではいられないのだ。

監督:關錦鵬 編集/美術/衣装:張叔平  出演:胡軍、劉Y、蘇瑾、李華彤
2001年香港


捍東を演じた胡軍、藍宇のリウ・イエのどちらも素晴らしく見惚れてしまう。
二人とも大柄で男性的な顔立ち、体格である。
この映画に惹かれた理由の一つは香港のスタンリー・クワンが映画監督とはいえ、舞台が中国北京であり(かなりのゲリラ撮影であったらしい)主演者たちも現地生まれ育ちであるということだ。
同性愛が題材である為撮影は困難を極めただろうが出演者の素晴らしい演技もあってぞくぞくするような出来栄えになっている。
胡軍、リウ・イエの二人はゲイではないと思うのだが、この作品の中では深く愛し合っているようにさえ感じる。
最後のベッドの中のキスシーンで受けになっている藍宇が捍東がキスをするより早く自分の顔を近づけて彼の唇に触れるのが感動的ですらある。

私はこの映画を台湾版DVDで鑑賞したのだが、それには『ビハインド・ザ・スクリーン』『メイキング・ブルー』なるものが付録されている。
そこでこの映画を撮るスタッフ、主演の二人の姿が映し出されているのだが、本編に負けないほどの出来栄えになっている。
本編に出てこない映像もありその中には切ってしまうのが惜しいほど仲睦まじい二人の様子が撮られている。
号泣する藍宇をなだめる捍東、風呂場で藍宇にシャンプーをしてあげる捍東、公園で肩を寄せてベンチに座り歌を歌う二人。
監督が見守る目の前で愛の言葉を囁く捍東と藍宇はまるで監督の存在に気づいてないかのようにさえ見えて二人だけの世界に入り込んでしまっていると思えてしまう(そんな二人をじっと見つめる監督の眼差しも熱く心酔しきっているようだ)
撮影の合間の二人も仲がよさそうでくすぐったいほどだ。はっとするほどいい表情の映像もあってこのまま一つの作品にできないかと思うくらいである。
実際二人は撮影が終わった後も余韻が残り普通の状態でなくなっていたためにスタッフが「会わないでしばらく離れていた方がいい」と忠告しなければいけないほどに影響を受けてしまっていたらしい。互いに妻と恋人の女性がいる為に心配なほどだったというのだ。
そこまでのめりこんでしまう演技というのは、と思わずにはいられなかった。

ところで私のブログ名『藍空』を何と読んでいただいているだろうか。ま、ここで問うたら自ずと知られてしまうが「あいくう」とか「あいそら」とかまちまちのような気がする。
実はこのブログ名、前にも書いたがこの『藍宇〜ランユ(Lan Yu)〜』からいただいているのだ。ということで読み方は「ランコン(Lan Kong)」なのであった。
『藍宇〜ランユ〜』という字と響きが好きでそのままつけたかったのだがファンも多いし誤解を生じてしまうので「宇宙より下で空にするか」と『藍空』になったのである。なのでこの映画には特別な感情を持たざるを得ないのだ。
読み方に関してはどれでも別にかまわないです(笑)私も変換する時は大概「あいくう」でやってるし(ランコンじゃ変換しない)

そして今回見つけてしまったのが黄品源とジェイ・チョウがデュエット(?)している『ニーゼンモショダウォナングォ』
この歌をまさかジェイが歌っているのを観れるなんて!!!鼻血が出るかと思った。

posted by フェイユイ at 22:56| Comment(19) | TrackBack(2) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
中華系の映画は「盛夏光年」に続いて実は「藍宇」が初なんです
フェイユイさんの文章読んでて・・・こう、落ち着かないって言うかどきどきしてます(笑)
私も又見直してしまいそう
台湾版のメイキングにそんな特典があったんですかぁ・・見たい〜(涙)
昔日本の俳優さんで、やはり数ヶ月の間のめり込んでしまった為、(多分恋愛感情が)抜けるまでに暫くダメだったってコメントを聞いたことがあるんです
ある意味、現実逃避のアイテムの一つとして映画がある私にとっては、別世界でありながら激しく羨ましい・・と思ってしまうのです(恥)

ブログ名の由来「宇宙より下で空」だったなんて・・感動
ちなみに私は「あおぞら」と読んでました〜(汗)
そしてジェイ・チョウさん、最近他のブログでもちょこちょこお名前を拝見するんですが、聞いてみようかな〜とちょっと中華系の音楽にも進出検討中です♪
Posted by kimchoco at 2007年12月17日 14:22
日本版DVDがどんな風になっているのか知らないのですが、台湾版はこんな風でした(笑)
DVDを観た当時(日本公開されたのよりかなり前ですね)二人の関係に夢中になっていたものでした^^;

突然ブログやりたい!と思いついて慌てて決めたのがコレでした。いいタイトルってこの言葉しか浮かばなかったんですよねー。『ランユ』じゃないと意味がないって気もしますが(笑)
日本語だと色々に読めてしまってややこしいんですよ。ご迷惑かけています^^;でもなんでもよいのです。
ジェイ・チョウに関しては私はもう冷静には話せないのですが是非聞いてみてくださいませ〜!!
Posted by フェイユイ at 2007年12月17日 17:00
お久しぶりのコメントです。
久々に「藍宇」本、読んで寝ようと思います。DVDもよいけど、登場人物をふーさんといえくんに照らし合わせて読むのが好きだったりします。
こんない愛し合えたらよいのにな〜〜〜。
Posted by さち at 2007年12月17日 21:32
お久し振りです。私もDVD観た後本を読んでじっくり楽しみました(えろ〜)
本の方が過激ですものね。
二人を思い浮かべながら、黄品源の歌も聞きながら(笑)
恍惚です〜。
Posted by フェイユイ at 2007年12月18日 00:08
やっぱ、えろ〜〜ですよね・・・恥。
でも、「そこに愛があるから読みたいのよ!」って声を大にして言い訳してみる。・・・駄目?(笑)

失礼しました^^
Posted by さち at 2007年12月18日 20:41
いえいえ、まったくそのとおりです!!私も言い訳言い訳(笑)

俺達がすべきことは愛し合うことだったんだ^^;
Posted by フェイユイ at 2007年12月18日 23:53
出遅れましたが、
私は決してジェイ・チョウのファンではなかったですが…
すいません…鼻血ものでした…
どうしよう〜〜〜〜♪黄品源のCDもイエスアジアで購入したけど、ジェイ・チョウでもう一回出して欲しいくらい…
なんか彼の歌で映画の場面が出てきて、涙を誘われました。
藍空…私はきっと藍宇からかなぁ〜って思ってましたよ♪
もう5年、いや6年?盛り上がりましたね〜私もどっぷり入り込んでしまってました。しばらく同志映画から離れていましたが、久々にやられました。
この映画のよさ…普通に起こりうるからなんでしょうか…中国という禁断の土地でごく普通の青年といかにもいそうなちょっとセレブリティな青年との恋。
台湾版のDVDはまたいいですね。カットされた場面がまたよかった。あの入浴の場面カットして欲しくなかったです。本当に幸せそうでしたよね…二人がやっとこれから幸せになれる…そう思ったのに…

Posted by まもう at 2007年12月19日 04:39
長すぎるのか、エラーがでるので二回に分けようとしましたが、やっぱエラーがでるので上のコメント中途半端ですいません。
ジェイ・チョウの動画自ブログで紹介させていただいていいでしょうか?
Posted by まもう at 2007年12月19日 09:34
ごめんなさい、まもうさん!エラーが出てしまったんですねm(__)m
ジェイの動画是非お使いください!私のは断りなしでかまいませんよ!!
鼻血ありがとうございます(笑)

『藍宇』夢中になりましたよね〜(笑)懐かしいです。
久し振りに観ましたがやっぱり感動でした。
タイトル、さすがにまもうさんには見破られていましたね(笑)このタイトルのせいで観ていなくても『藍宇』を忘れることはありませんでしたねー。あ、ハンドルネームをハントンにすればよかったかな^^;
Posted by フェイユイ at 2007年12月19日 10:29
初めまして!ロム専で愛読させて頂いていましたがついに「藍宇」のお話が出て思わずカキコです。タイトルは「藍宇」からだろうなあと思っておりました。懐かしいなあ〜〜。変わりゆく北京の街と二人の恋がシンクロする切ない恋愛映画でした。BBMもいいけど、こっちの方が同じ人種のせいか、よけい胸に迫ってくる感じがしました。私も久々にDVD見てみます。
Posted by roserose at 2007年12月21日 19:49
はじめまして、roseroseさん。『藍宇』記事書いてよかった〜(笑)
久し振りに観たら、どうだろうか、と思っていましたが感動は薄れませんでした。
最も感動するのは作り手たちの熱意が伝わってくることでしょうか。
胡軍、リウ・イエの熱演もまたしかりですね。

ではではDVDお楽しみください。これからもよろしく〜。
Posted by フェイユイ at 2007年12月21日 22:40
レスありがとうございます。リウ・イエは演技の天才だと思いますよ〜ドラマの「拿什麼拯救ォ我的愛人」もすごくよかったです(スカパかNHKで放映してくれないかな)。二人が出る「画魂」もしっとりした素敵なドラマでした〜。リウちゃんは、今は、ちょっと伸び悩みなのかしら?メリル・ストリープとの共演映画はどうなったのでしょうね。胡軍は、「藍宇」がベストかな・・これからも楽しくこちらを読ませて頂きます。
Posted by roserose at 2007年12月22日 20:18
私的にはリウ・イエは『PROMISE』『満城尽帯黄金甲』よかったです!!
胡軍は『藍宇』のハントンも勿論好きなのですが、それ以上に好きなのは『天龍八部』の蕭峯なのです^^;(『天龍八部』については『藍空』で)
二人とも今後の活躍が期待されますね〜。
Posted by フェイユイ at 2007年12月23日 15:24
こんばんは はじめまして
「虎猫の気まぐれシネマ日記」のななと申します。
TBさせていただきました。
つい先日,この映画の存在を知り,私のベストシネマであるブロークバックマウンテンと似たテーマだなぁ,といてもたってもいられなくなってDVDを入手しました。
・・・原作も読んで,いまだに深い余韻を引きずっています。
当分続きそうな予感。
一番感動したのはやはり,藍宇のキャラクターや,彼の愛し方でしょうか。
彼ら二人には,いつまでもいっしょに幸せに生きてほしかったです。
ところで,このような素晴らしい映画からブログ名をつけてらして,とっても素敵ですね!
Posted by なな at 2008年09月22日 00:10
はじめまして。ななさん。かつて中華系映画にのめりこんでいた私なのですが、そういう時に出会ったという意味も含めてこの映画には尋常でない思い入れがあります。まだ日本に来ていなかったので必死で中国語字幕を訳をして覚えてしまうくらい観ましたからねー。
あのテーマ曲を聞いても心が揺さぶられます。
ななさんは出会ってまだ間がないということですからあの当時の私のような熱い思いを抱かれているのでしょうねー。

ブログ拝見させていただきました。
これからもよろしくお願いいたしますね!!!!

Posted by フェイユイ at 2008年09月22日 00:53
フェイユイさんの映画記事を読むと見たくなってしまいます。
もう少し出費が落ち着いたらこのDVD買います!
何回も見てしまいそうです。
いつ見れるかなあ・・・。
Posted by コラン at 2008年10月24日 23:02
『藍宇』は基本ですからね(笑)
やはり絶対押さえておきたいですよね。
私はもう数え切れないほど観ました。
こんなこと書くと我慢できなくなりそうですねー。ふふふ。
Posted by フェイユイ at 2008年10月25日 00:11
フェイユイさん、お久しぶりです。
随分と記事更新がなく、心配しているのですが。。お元気でいらっしゃるでしょうか。
そして失礼かとも思ったのですが、私にとっては『藍宇』といえば『藍空』のフェイユイさん、なのでコメントとTBさせて下さい。
(自分の勝手なんですが仁義を通したいと思いました。)
遅過ぎるのですが、この映画に出逢えて本当によかったです。「これも一つの縁」by捍東、ですね(笑)。
レンタルで見つけたのですがDVDを買ってしまいました。これからじっくりメイキングを観ます。
自分のブログ、「真紅」なんですが「藍色」にすればよかった、とか(相変わらず)バカなことを考えています。
いつかまた、フェイユイさんの新しい記事が読めるとうれしいです。
と言うか、フェイユイさんが書かれた『藍宇』の記事が読めて、それだけでもうれしい私なのですが。
Posted by 真紅 at 2010年10月29日 00:02
返事がすっかり遅くなってすみません。
大したことではないのですが諸事情で映画を観て感想を書く、という作業がまったくできなくなってしまいました。
だからといって映画が嫌になったわけではないのでまた観て書く余裕ができたら再開したいと思ってます。ただそれがいつになるかは、判らないのですが・・・。
私こそ真紅さんのレビューで刺激を受けてここを書き続けてきたのですが。
本当にありがとうございます。

『藍宇』は私にとって特別な映画です。
真紅さんにDVDを購入して観てもらえるなんて!嬉しいですねえ。

藍もよいですが真紅もステキですよ!!
偶然、色彩ブログになってましたね(笑)
Posted by フェイユイ at 2010年11月17日 00:22
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