映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2008年01月10日

『荊の城』上・下エイスリング・ウォルシュ

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FINGERSMITH

イギリス、ビクトリア朝のロンドンと郊外のお城の物語、と聞けばそれだけでなにやら面白そうだとわくわくしてしまうのだが、この作品はそうしたわくわくだけではすまされない動悸を起こすものだった。

先日『オーシャンズ13』はクライムサスペンス、コンゲームと言われるには物足りないと思ったものだが、本作こそはクライムサスペンス、コン・ゲームと称すべき作品である。しかもそれだけではない、というよりもっと秘められたものがあるのだ。
上下に分かれた全3時間のドラマだが一気に観終えて欲しい。というか観終らずにはいられないはずだ。上だけしかレンタル、購入しなかった方はお気の毒である。
ロンドンの貧しい生活の少女スウと田舎の城で暮らす事になった心療院育ちの少女モードが紹介される。
ロンドンの下層階級少女は実母はいないが育ての親の家で荒々しい生活にもまれながら成長し、城に住む事になった少女は、書籍を扱う伯父の秘書として毎日を送っている。
ある日、「紳士」とあだ名されるハンサムな若い男リバーズがロンドンの少女スウに仕事を持ちかける「田舎の城に住む若い女を誑かして結婚すればその莫大な財産が手に入る。その手助けをしないか」極貧の生活をするスーに3000ポンドの分け前を約束するのだった。スウは侍女として同じ年頃の少女の住む城へと向かう。

果たしてスウとリバーズは令嬢を騙して財産を手に入れられるのだろうか、というサスペンスになるわけで確かにそういったはらはらが気になってしまう。構成もちょっと面白い仕掛けになっていて、前半、ほぼスウの目を通した物語だったのが、後半令嬢モードの物語の種明かし的な展開になっていくのである。
観客はあっと騙され、また進むうちに思わぬ方向へと導かれていくことになるのだ。
だが、この作品の本当の狙いはそういった財産目当ての騙しあいではなく、ビクトリア時代の性に関する「騙し」なのである。
一見、厳格に多くの著作の研究に没頭していると見られた令嬢モードの伯父の蒐集が実はポルノ本だったのだ。読み書きができたモードは幼い頃から伯父にそういった性的な著作を読まされ、卑猥な絵を見せられて育ったのだ。処女であるモードだが幼い頃からそうしたポルノ本に慣らされ感情が動くこともなかった。品行方正であることを求められたビクトリア時代の隠された部分に焦点があてられているのだ。
もう一つは数奇な運命の中で出会う事になるスウとモードの同性愛。これこそがこの作品の主題となっているのだ。
僅かに匂わせる、というようなことではなくスウとモードははっきりと互いに恋をする。
これは「レズビアンを描いた貴重な物語」なのだ。と大げさにいうのもなんだが、差別されていると言われても男性同士のゲイを描いたものはかなりの数あれど女性同士となるとひやかし程度のものを省けばその数は微々たるものではないか。
先日観た『あるスキャンダルの覚え書き』でも同性愛が描かれていたとはいえ、なんだかいまいち寂しいものがあったりで(しかも人によって微妙に受け止め方が違う。あれが男女間だったら恋愛じゃないとは思われないだろうに)レズビアンを描いた作品というのは本当に少ない。
この話は一見時代ミステリーだが設定はすべて二人の女性が恋愛に落ちた物語を語る為のものになっているといってよい。
片方が令嬢で片方がメイドというのも今流行りの(違うか?)恋愛形態にするべく設定されたような気がする。
二人を騙すために登場する「ロンドン一のハンサム男」というのも「そんなにハンサムな彼も彼女達の恋を邪魔できなかった」という証明のために登場してくるのである(ブ男だったらそのせいでレズになったと言われてしまうからね)
性的知識はあっても世間を知らない美しい令嬢と彼女を守ろうとするしたたかな侍女という関係はビアン的欲望を刺激するものなのではなかろうか。

正直、ドラマを観た限りではこのミステリーはあちこち穴があるように思える。一番ひっかかるのは「何故、スウを心療院にいれなければならなかったのか」というところなのだ。確かに前半の展開でモードを騙して家出させ結婚し財産を奪って心療院に放り込む、という企みは判る。だが実はリバーズとモードが手を組んでいたんだとしてもスウを身代わりにした意味がこのドラマでは伝わってきない。伯父がどうこう動いたという映像もないし。
そして実はすべてがサックスビー夫人の計略であり令嬢モードは彼女の娘でスウこそが城に住む令嬢だったのを夫人が入れ替えたのだ、という告白となるのだが、サックスビー夫人がスーも愛しているためにこの計略が成り立たないのではないか。憎んでいて心療院に押し込んだのだ、とするのかでなければすべてが城の「伯父」を騙す為の全員の策略だったということにするか、そうするとラストは皆で財産を分け合ってハッピーエンド、ということになってしまうが。リバーズが3000ポンドで満足せず、裏切ったとかにすれば話は別だけど。

そういうミステリー部分にはやや「?」を感じさせはしても本筋であるビクトリア時代の女性の性というもの対しての描写が素晴らしくて魅入らずにはおかないのだ。
モードが清楚な令嬢という風になっていたのもひっかけではないか。最初幼女の頃のモードは激しい気性であった。あの性格が彼女の本質のように思える。

ハンサムなリバーズのキスには何も感じないがスウからのキスを受けて欲望を感じたというモード。それまで卑猥な本を見ても何も思わなかったのにスウを知ってからその本の意味がわかったというモード。モードの髪を梳きながら踊りを教えながら次第にモードを好きになっていくスウ。二人の愛情が「同性愛的なもの」ではなく明確に同性愛として描かれている。
ミステリーという設定上互いを騙しあってしまった二人だが、鎖となる伯父と母が亡くなり、スウが城を訪れた時、モードが一人小説を書いているのを見る(これは原作者、サラ・ウォーターズ自身のことなのだろうか)謝るモードをなだめるスウ。
何を書いていたのと問いかけるスウに「あなたを愛していたことを」と答えるモード。
自由になった二人がこのひっそりとした城で愛し合いながら暮らしていくだろうという予感を持たせて物語りは終わる。

黒幕ともいうべきサックスビー夫人にイメルダ・スタウントンが扮している。『ヴェラ・ドレイク』でもある意味おせっかいなおばさんを演じていた彼女はここでもおせっかいを焼いていて切ない。さすがにうまい。
そしてロンドン一ハンサム(仲間評)なのに二人の女性のどちらからも好かれない上、貧乏くじを引く可哀想なリバースを演じたルパート・エヴァンス。ごめんなさい。好きになってしまった。どうしよう。凄く甘ーい顔なのに。しくしく。
貴族でもないのにいちいちかっこつけた仕草も可愛い彼なのだが、レズビアンの二人の女性の引き立て役というちょっぴり寂しい役ではある。
ところで特典映像の中でルパートがリバーズについて語っていたのだが「彼は多分同性愛者なんだ。受け入れられなかった当時、彼は感情を抑圧せねばならずそのために内面に怒りを持っている」というのである。リバーズも同性愛者だとは思わなかったので驚いてしまった。そう語っている素のルパートの表情も素敵だったのでますます好きになってしまったのである。リバーズが同性愛者といって彼を演じていたルパート・エヴァンス、気にならないわけがない。
ビアンドラマとしては「歯が痛い」というモードの口に中にスウが指を差し込んで治してあげるシーンが色っぽいのだが、私はモードの手を舐めたルパートに負けてしまった。

監督:エイスリング・ウォルシュ 出演:サリー・ホーキンス エレイン・キャシディ ルパート・エヴァンス チャールズ・ダンス デヴィッド・トラウトン イメルダ・スタウントン
2005年イギリス/BBCドラマ

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このドラマのじゃないけどルパート・エヴァンスのアップ。


posted by フェイユイ at 22:57| Comment(1) | TrackBack(0) | 欧州 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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Posted by UK-JAPAN2008WEBサイト運営事務局 at 2008年01月18日 16:40
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