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2008年01月21日

『約束の旅路』ラデュ・ミヘイレアニ

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Va, vis et deviens 行け、生きろ、生まれ変われ

まずこの映画がもたらしてくれた「エチオピアの山奥に黒人のユダヤ人が大昔から暮らしていた」というちょっと聞いただけではすぐに飲み込めない事柄に驚く。
ソロモン王とシヴァの女王の子孫である彼らは他のユダヤ人との接触のない世界で長い時の間、自分たちだけでユダヤ教を信仰し続けていたというのだ。彼らにとっては自分達こそがユダヤ人なのであって後に白人のユダヤ人を見て信じられなかったのである。
彼らはファラシャ(よそ者の意)と呼ばれる。(出エジプトの際にエチオピアに向かったヘブライ人だと言う説も)

そして1980年代以降、イスラエルと米国は「モーセ作戦」「ソロモン作戦」と称して大規模なファラシャのイスラエル移住計画を遂行したのだ。
移住を認めないエチオピア政府の元、ファラシャたちは歩いてスーダン難民キャンプへと向かう。その移動は過酷を極め、多数の死者が場所もわからないまま埋められる事になった。

以上が事実であり、ルーマニア出身のラデュ・ミヘイレアニュ監督はその体験者からのリサーチを集めて独自の物語を作り上げている。

ここでの主人公はそのエチオピア黒人ユダヤ人ではなく、キリスト教徒の黒人の少年である。母親とともに難民キャンプにたどり着いたのだ。
だがユダヤ人である黒人だけがイスラエルへ輸送されることを知った母親は少年を追い立ててその中へと送り込む。
子供を失ったばかりの女性がキリスト教徒である少年にユダヤ人らしい受け答えを教えて彼を助けたのだった。

何と言っても知らなかった事実と物語の設定が興味深いので夢中になって観てしまう。
ユダヤ人らしい名前シュロモと名乗ることになる少年の半生を3人の役者が演じている。
特に子供時代のシュロモはいきなり最愛の母親と別れ、言葉のわからない土地へ住み、キリスト教徒であることも自分の正体もひた隠しにしなければならない苦悩で精神が歪んでしまう状態が丹念に描かれていくので思わず涙が溢れてしまう。
だがそんな彼も少しずつ養父母家族に慣れ、恋を知る。実の母が別れの時「何者かになるまで帰ってはいけない」という言葉にも悩むシュロモがようやくその道を見つける。
シュロモには3人の母親がいて、まず実の母、自分をユダヤ人として導いてくれたほんの僅かの間の女性、そして頑なだったシュロモを養子として引き取って育ててくれたフランス系白人のイスラエル人。
心を鬼にして幼いシュロモを一人きりユダヤ人の中に追い込んで「行きなさい」という母親と大人として自立する為にフランスの大学へ行くシュロモに「行きなさい」と励ます3人目の母親の姿が重なる素晴らしい演出である。
この作品ではシュロモに対する母親達の愛情が心をこめて描き出されているのだ。

物語の面白さとシュロモの成長と母親や恋人との触れ合いに非常に感動しながらも、ややトントン拍子に進みすぎるドラマ展開に納得のいかない部分もある。
重いテーマと半生を描く長いドラマであるためにどうしても説明不足になる部分、端折ってしまう箇所、都合よく行き過ぎる展開が多いせいもあるだろう。
また丹念に描かれていた前半に比べ、後半から終わりに近づくほど急ぎ足になりラストはまるでもう時間がなくてどうしようもなかったみたいな慌ただしさに思えた。自分の好みかもしれないが、突然再会した母親が慟哭する、と言う風にしなくても(もしかしたらあれは人違いで叫んだのでは、と思えてしまう)「きっと見つけたんだ」と思わせるような終わり方でよかったのではないだろうか。
母親に焦点をあてるために義父はわりを食っている。彼も懸命にシュロモを愛しているのに可哀想なのだ。彼との関係も映画内で解決して欲しかったのだが。
代わりにケス・アムーラが父親であり友人でもある存在となっている(シュロモにはいい同性の友達がいないようだ。これも残念だった)
おじいちゃんもいい人であるが。

映画同様、感想も始めが力入って最後はしぼんでしまった。幾分心残りを覚えはしても、エチオピア、スーダン、イスラエル、フランスにまたがるシュロモの旅の物語は忘れられないだろう。
母国語のみしか話せない自分と違いシュロモは一体何ヶ国語話せるのか、驚異である。
国、宗教、人種、家族、様々なことを生きていく中で絶えず問い続けなければならないシュロモの人生を考えてみなければいけない。
シュロモの養父母がイスラエル人でありながら「敬虔でない」ユダヤ人で宗教にも無頓着な「左派」という家族なのも驚きだった。
自分もまたどうしても画一的なイメージを持ってしまっているのだ。

最後の青年期シュロモを演じたシラク・M・サバハは実際少年期にエチオピアから遥かな旅路を歩いた経験を持つのだという。
外見は今風のお洒落でハンサムな若者に見えるのだがその経験のためにも映画作りには並々ならぬ思い入れがあったようだ。
素顔も真面目で礼儀正しいステキな若者に思えた。
ミヘイレアニュ監督はフランス在住だがかつてのチャウシェスク政権下のルーマニアから逃れたという過去を持つそうである。

監督:ラデュ・ミヘイレアニュ 
出演:養母ヤエル/ヤエル・アベカシス
養父ヨラム/ロシュディ・ゼム
シュロモ(幼年時代)/モシェ・アガザイ
シュロモ(少年時代)/モシェ・アベベ
シュロモ(青年時代)/シラク・M・サバハ
ケス・アムーラ/イツァーク・エドガー
サラ/ロニ・ハダー
おじいちゃん/ラミ・ダノン
ハナ、エチオピア系ユダヤ人の母/ミミ・アボネッシュ・カバダァ
シュロモの実母/マスキィ・シュリブゥ・シーバン
2005年/フランス映画
タグ:宗教 人種 家族
posted by フェイユイ at 22:26| Comment(0) | TrackBack(1) | アフリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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約束の旅路
Excerpt: 2005年 フランス 2007年3月公開 評価:★★★★☆ 原題:Va,vis
Weblog: 銀の森のゴブリン
Tracked: 2008-01-28 11:32
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