映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2008年02月06日

『ケリー・ザ・ギャング』グレゴール・ジョーダン

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オーストラリアで絶大な人気を持つという実在した人物、ネッド・ケリーをヒース・レジャー、その仲間の一人をオーランド・ブルームが演じている。

オーストラリアの歴史といえば知っていたのは「犯罪者の流刑地であったこと」と「白豪主義」だったということ。
この映画はまさにその歴史の物語である。
教科書だけの知識とこんな風に映画でそれが一体どのような状況だったのかを知るのはまったく違う。
こうして観るとイギリス人の権威は絶対的なもので中国人移民、流刑されてきた人々やその家族に対しての暴虐がとんでもないものだったことが判る。もともとの住民アボリジニに対する描写は殆どなかったが、想像を絶するものであったのではないか。
本国においてもイギリスのアイリッシュに対する差別意識の酷さは『麦の穂をゆらす風』などに表されているが、遠く離れたこの土地でも、というか離れたことでさらに無法状態なまでの圧政になっているのではないだろうか。
ヒース=ネッド・ケリーはイギリス人警察の言いがかりで3年の刑に服役させられたのが10代の時である。
ようやく出所して懸命に働こうとしてもそちらの方がよっぽど無法者としか言えない警官達から馬を盗まれ、妹にちょっかいを出され、母親を投獄され、反抗すれば犯罪者になってしまうというどうしようもない状況に追い込まれていく。あまりのなす術のなさに観ているだけで苛立ってくるがイギリス人自身が法という社会なので虐げられた存在でしかないアイルランド人たちには同じ人間としての発言権など微塵も与えられないのだ。
愛する母親を投獄され行き場もないネッドは3人の仲間を連れ、ギャングとなって銀行強盗などで金を奪い貧しい人々に与えていく。
焦りだしたイギリスは破格の賞金をネッドと仲間にかけ、大勢の捜索隊を構成して彼らを追い詰めていった。

政府にとっては反逆者であり強盗だが、貧しい人々にとっては英雄だったネッド。
ついに捕まった時は3万もの助命嘆願署名が集まったらしいが刑は執行され25歳の若さで亡くなったという。
が、その人気は絶えず忘れられる事もなく次々と映画化されミック・ジャガーもネッドを演じて有名だったということでイギリス圏でのネッド人気というのは相当なものなのだろう。特にオーストラリア本国での人気は不動でオリンピックの時も鉄甲と鎧をつけたネッドのイメージキャラクターが大勢でオープニングを行進したというのだ。

ヒース・レジャーはネッドに似た部分があると言う。家族思いで反骨精神があり、信念のために戦う勇気を学んだと。
同じように20代半ばで命を失ってしまったとは。

ネッドの死に逝く時の様子は奇妙でさえある。不恰好な鉄の鎧と甲を身につけピストルを撃ちまくる。
生い立ちと状況を知らないなら笑ってしまいそうだ。
その姿はどう抵抗しようもない強大な圧政に何とか立ち向かう力なき者の反逆の形なのだ。
そんな格好をしても結局は負けてしまうとわかってはいても彼らはそれしかなかったのだ。
乗りこなせない荒馬を撃ち殺せとイギリス人が命令する。「どうにかします(から、殺さないで)」と申し出るネッドの言葉を無視して馬を撃ち殺してしまうイギリス紳士。
この時、ネッドはその馬と自分を重ねただろう。

ネッドが10歳の時、溺れかけた少年を助けたお礼として与えられたサッシュ(腰に巻く布)をずっと巻いていた為に博物館に残されたそれには血が付着しているという。

語り継がれた英雄譚の映画化のためか作品自体はそれ以上の何かを訴えるまでにはいっていないようで、この歴史を知ったうえでの方が感動が湧くように思える。
どうしても日本と重ねて観る時、圧制を強いていた側という歴史があるため、このような作品により心を痛めてしまう。
理屈もなく人間の尊厳を無視したこういう社会がないことを願う。

本作のヒースは大柄で髭面のネッドになりきっている。『ブロークバックマウンテン』にも伺えるが、荒くれた生活を送る無口な男を演じるのが似合う。本人は非常に繊細な人のように思えるのだが。
オーランド・ブルームという人気俳優が出演しているのも面白い。女性にモテモテの二枚目という役だ。勿論、抜群に似合っている。
ナオミ・ワッツ。ネッドと恋に落ちるイギリス人・人妻。人種差別もあるが女性の立場も悪そうだ。他に13歳の少女と同衾している男も登場するし。何もかも荒れているように感じる。

監督:グレゴール・ジョーダン 出演:ヒース・レジャー オーランド・ブルーム ナオミ・ワッツ ジェフリー・ラッシュ ジョエル・エドガードン
2002年オーストラリア


posted by フェイユイ at 22:26| Comment(2) | TrackBack(0) | オセアニア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
この作品はヒースに似合っているだろうに何故か私は今迄知りませんでした。今となっては多分スクリーン中の彼を見る事に(現在は)抵抗があるので、フェイユイさんの評を先に読みました。^^・・やはりヒースにぴったりの役所なのですね。内容はネッド・ケリーという人物の背景を考え合わせた上で奥行きある鑑賞が可能であるとのこと。こちらでフェイユイさんの考察に味があって、観た気になりました。もうOK。(笑)・・どうせヒースをまともにみられないし。この時の恋人ナオミ・ワッツもだいぶショックを受けたようですね。
話は違うのですが昨日『ぜんぶ、フィデルのせい』観ました。もう、大感動。自分的に凄く好きな作品でした。監督はあの(といっても作品未見^^;)『Z』『戒厳令』のC・コスタ・ガヴラスの実娘!。社会的視点を根底に少女の視点から世界を覗く演出と脚本が見事!決してコドモモノのお涙頂戴風に流れず、大人の心理の葛藤も描き、そして最後は少女の成長に涙させられる・・素っ晴らしい☆作品でした。・・いつか、是非!!!
Posted by フラン at 2008年02月07日 09:38
この映画はオーストラリア製作ですし、故郷のヒーローを演じるのですからヒースも特別思い入れがあったのではないか、と思います。映画自体が大傑作というわけではないと思うのですが、ヒースの演技には心がこもっていたと感じました。この作品もいつかフランさんが観れたらいいなと思うのですが。

『ぜんぶ、フィデルのせい』絶対観ます。楽しみです。コスタ・ガヴラス監督、私も未見ですが〜(笑)
Posted by フェイユイ at 2008年02月07日 13:32
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