映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2008年02月17日

『バッド・エデュケーション』ペドロ・アルモドヴァル

バッド・エデュケーション.jpgBad-Education2.jpg

『藍空』で一度記事を書いているのだが、読み返してみたらてんで内容も感想もわからない。多分、アルモドヴァル世界に翻弄されうまく掴めないままに終わったのではないか、と思われる。
今回理解した、と言うほどもないのだが、もう少し何とか書いてみようか。

物語の本筋自体は、厳格なはずのカトリック教学校で神父であり校長であるマノロから性的虐待を受けた少年が長じて金をせびり、当時恋心を通わせていた同級生と関わっていく、というもので目新しいわけでもなくややもすると反感を持ってしまうような内容なのだが、これがアルモドヴァルにかかってしまうとなんともいえない魔法にかかってしまったかのように不思議な幻想を観てしまうのだ。

本作は錯綜してわけがわからない、と言うほどではないが物語の中に物語(映画の中の映画)が入り込んでいるので、夢と現実が入り混じったような感覚に陥ってしまう。

冒頭ではアルモドヴァル監督の分身的存在、エンリケ・ゴデが次回作のアイディアを練っている。高速道路をバイクで走る途中寒さで凍死してしまったのに、なおも走り続けている男、というニュースを取り上げている。「寒い夜、若者はどこへ?」「会いたい人がいたんだ」
会話だけで示されたイメージだが、このエピソードが後にイグナシオと重なって感じられるようだ。
ここで突如現れた青年、エンリケは見覚えがないがかつて同級生だったイグナシオだと告げる。はっとしたエンリケは彼と抱きあう。イグナシオはエンリケが在籍していた神学校での初恋の少年だったのだ。
が、イグナシオに思いを寄せていたマノロ神父によってエンリケのみが退学処分を受け、彼らはその後会うことがないまま過ぎていた。
映画監督となったエンリケの元にイグナシオはかつての思い出を文章にして持って来ており、よければ何か役者の仕事を欲しいと申し出る。エンリケはそんなイグナシオに以前の彼とは違う何かを感じていた。

この映画の見所の一つはガエル・ガルシア・ベルナルの変化の妙で確かに楽しい。
まずは髭面の青年で登場し、物語の中のサハラという女装の男に変わる。金髪のショートヘアに淫らなイメージのドレスを着たガエルの美しさときたら。化粧のせいで大きな目がいっそう妖しい光を持ってこちらに視線を送ってくる。舞台がはねた後の長い金髪の女装ガエルもキュートなのだ。彼は意外と逞しい体つきなのだが、私的にはあんまり痩せた男性より彼のようながっしりした体格の女装が凄く隠微に妖しい色香を感じるさせるのでぞくぞくとしてしまう。
劇中映画のエンリケもいい男なのだがその彼と意味ありげな鍵探しをする場面、一方的なメイクラブ。その後で彼が初恋の人だと知り密かに手紙を書く場面など、ガエル=サハラの女っぷりに見惚れる。
それから兄イグナシオのフリをしてエンリケを騙し続けるファン=アンヘルとしてのガエル。
そしてさらに兄イグナシオから金をせびられたマノロ神父と肉体関係を持つファンとしてのガエル。女性化したイグナシオに失望したマノロが目をつけたのが弟ファンだったのだが、この時のガエルはそれまでの彼とまったく別人の少年のようで驚いてしまうのだった。
だがその彼もマノロと肉体関係を持ち出してからはまるで小悪魔の如き性悪になってしまうのである。
それらを演じ分けたガエルの演技力というのは今更もう驚くこともないのだが、髭でも女装でも少年でも一つ一つが魅力的なのだからやはり参ってしまう。
またエンリケ役のフェレ・マルチネスも素晴らしくて最初観た時以上に見入ってしまったのである。
この作品にはいくつかの関係が描かれていて一番思いが強く表現されている人物がマノロ神父(後・ベレングエル)でイグナシオに対しても弟ファンへの愛も率直で判りやすい。自分勝手で嫌気もさすがファンへの一途な思いは憐れでもある。
一方この物語の中心であるはずのイグナシオとエンリケは互いに思い続けながら再会することはなかった。
女性化し、麻薬中毒になってしまったイグナシオは更生と肉体改造とエンリケとの再会を望みながら果たせなかった。
エンリケに会いたいと願いながらも肉体は崩壊寸前であるイグナシオに冒頭の死にながら走るライダーの姿を重ねてしまうのである。
ただこのイメージをダブらせながらアルモドヴァル監督はことさらにこの場面を強調していないのだ。
イグナシオのエンリケへの思いをまたその逆をイメージとしての映像で語ることをしなかった。ただ淡々とあるがままを綴っていったように思える。
その思いが告げられるのは最後にファンが渡したイグナシオのタイプした手紙の一行「親愛なるエンリケ。多分これでやっと」
エンリケは関係を持っていたファンを門の外へ追い出し、その手紙を震える指で広げる。まだ幼い日にに寄り添った二人の少年は死んだ後にしか再び通じ合うことができなかったのだ。
イグナシオとエンリケの純粋な愛とファンの陰謀にまみれた愛とマノロの自己中心の愛がここに綴られた。

前回も書いたと思うがハビエル・カマラ演じるパキートがかわいい。重く暗い語り口の中で彼の存在が救いになっている。
フェレ・マルチネスはこの役のために随分減量したそうだが、理知的な顔立ちと均整のとれた逞しいがほっそりした体が大変ステキである。
怪しいと思いながらもイグナシオと名乗るファンを見つめる目だとかイグナシオの死の真実を聞き苦しむ眼差しは虜になってしまう。
ガエルはいつもいつも可愛らしく動物的な魅力に溢れていてフェレとどちらが魔力があるのだろうか、という目力合戦である。
私なんぞはどちらを見てもバン!と撃ち抜かれてしまい倒れたままなのだった。
少年期イグナシオの歌声とあの目もまた素晴らしい。

気になるのは本当のイグナシオとエンリケが再会していたら、どうだったのだろうか、ということ。
今のエンリケの好みは男性らしい人(一緒に仕事をしていた中年男性もそうだし)のようだが女性化したイグナシオにも同じように愛を注ぐのだろうか。
女性化すると共に麻薬中毒の為か性格が荒々しくなってしまったようなイグナシオである。
二人の間に純粋な愛を感じてしまうがもし再会していたなら互いの変化に幻滅してしまうのだろうか。
もうそれは判らないままだ。二人はきっと愛しあったに違いないという夢を見ながらもそれはやはりかなわなかったのだろう、という悲しさが物語を締めくくる。


監督:ペドロ・アルモドヴァル 出演:ガエル・ガルシア・ベルナル フェレ・マルティネス ハビエル・カマラ ルイス・オマール ダニエル・ヒメネス・カチョ レオノール ワトリング
2004年スペイン





ラベル:宗教 同性愛
posted by フェイユイ at 23:14| Comment(4) | TrackBack(0) | 欧州 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
巻頭の写真のごとく極彩色が重なり合うような印象の映画でした。
フェイユイさんは二人の主人公とハビエル・カマラと神父役以外の役者には触れていませんが、私は(ヒネクレなんで)中毒になってしまったイグナシオを演じた彼が、すごくいいと思いました。イグナシオの哀しみが出ていたし。男っぽいのに哀しいおかま。ちょっとエイドリアン・ブロディみたいな感じ?それこそゾクッとしました;タイプです(笑)。それと気付きましたか?エンリケがイグナシオを捜している時、店でマッチのことを尋ねたバーテン。彼もすっごい可愛い◎そして映画中、ステージはけたイグナシオを待っている彼、ステージで投げた薔薇を一輪右耳の上にさして楽屋口で待ってるの・・きゃあ☆なんてカワイイ!^^;と。この彼、なんか眉がつながってるんだけど(笑)美形でベッドでも美しい裸体をさらしてくれるし。。。そして勿論ガエルにフェレに、美少年達(学校だから沢山!^^;)に・・本当に監督たら好きなタイプの男の子を思う存分起用してた〜いへん楽しく制作したのではないかしら^^と思いましたです。
物語の重層的な創りも手が込んでいますよね。監督の力の入れ様を感じます。画面も映像の特に色がお洒落でした。スペインの映画というのも初めて?でしたし、ガエルのお陰で色々な国の作品を観られる事がまた楽しいです。
Posted by フラン at 2008年02月18日 08:12
フランさん、さすがです(笑)
私の記事って後でいつも思うんですが筋ばかり気にして役者さんに触れてませんねー。今回の登場人物への感想も随分意識していれたのですが、あんまり役者自身に興味がないのでしょうか(そんなことありません!)
勿論観てる時は「かっこいい」だの「かわいい」だの思ってるんですが^^;
どうしても監督はどう思ってるのか、主体で書いてしまうのですね。そう言うほど監督の意識を把握してるともまた思えませんが^^;

でもフランさんのコメントでまた書き足しました(笑)殆ど添削をお願いしている状態ですね(笑)
バーテンさんとか覚えてませんでしたが(後で観てみます(笑))確かに美形が出てきますね。アルモドヴァル監督のご趣味が伺えるというものでしょう。エンリケのあの視線が監督そのものなのでしょうねー。
Posted by フェイユイ at 2008年02月18日 11:04
この作品はとても重層的な創りですからレビューも複雑で表現しづらいはずなのに、フェイユイさんの解釈と表現は完璧なのではないでしょうか。そして例えば肉体が崩壊寸前のイグナシオ=冒頭エピのライダーの姿である・・という所なども私には思い到りませんでしたし、そういった深い読込みができるフェイユイさんの感性がいつも羨ましいですよ。^^
私はレビューも書けなくて、フェイユイさんのようにしっかりと纏め上げられた評文に乗っからせて頂いてるだけ^^;バーテンのコが可愛いとかソンナどうでもよいこと述べててお恥ずかしい限りです。
全体を掴んでそれを詳細なレビューにする・・フェイユイさんはストーリーをなぞるだけでなくそこにご自分の感性との関わり合いを絡めて纏め上げてらっしゃる所がいつも見事だと思いますし、私が藍空放浪記のファンである所以なのです。^^
ところで今夜は、市川監督の作品『犬神家の一族』『細雪』が地上波とBS2でガチンコですね。私は当然、後者を観たいです。録画できるのが嬉しい◎(ナゼカくせになる作品なので^^)。
Posted by フラン at 2008年02月18日 16:45
フランさんに褒めてもらい赤面するばかりです。いえ、本当にフランさんのコメント読むといつも「あーそうだった」と思うんですよ。
ストーリーばっかり追っている私と違いそういう俳優を見つめる映画レビューというのも凄くいいですよね。フランさんに是非やってもらいたいものです!かわいいバーテンを見つけるのも大事なことです(笑)そういうのあったら絶対読んで「アーそうだったか、気づかなかった」を繰り返しそうです。
きっとそういうとこに監督の気持ちが出ていると思うのです。
てきとーな監督は何かとてきとーですし、アルモドヴァルのような人は細部にもこだわって自分の趣味をいれているはずですもんね。

さすがに市川監督ともなればNHKも特集を組みましたね。私は観れそうにないですが『細雪』は是非レンタルで観たいです。でも今借りれない状態なんですよ!やはり皆さん思いは同じなんでしょうねー。
Posted by フェイユイ at 2008年02月18日 17:12
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。