映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2008年03月01日

『インランド・エンパイア』デヴィッド・リンチ

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INLAND EMPIRE

こんなに映画記事を書かなかったのは私にしては珍しいのだが、何をしていたかというとデヴィッド・リンチ『インランド・エンパイア』を繰り返し観ていたのはタイトルですでにおわかりだろうが。
それですっかり理解できたのかというと無論できてはいない。観れば観るほど袋小路に入ってしまうようでもある。
かといってようよう飲み込めた(ような気がする)ことを書き出そうかと思ってもちょっとネットで検索してみたら次々とこの映画についての解析分析考察がすでに数多くあげられていて監督自身のインタビューもあるのでなんだか今更書くのも気がひける。
なんとか自分なりの考えを書いていきたいものだとは思っているのだが。


ともあれ、ここである程度の本作の謎解きのようなものを書いてみよう。監督自身の言葉や他の方の解析も含まれている。
描かれているのは『ツイン・ピークス』でも題材となっていた「死」と「死後の世界」そしてその間に置かれた場所について。
物語はローラ・ダーン演じるニッキー(スーザン)が一人で引っ張っていくのだが、実の主人公はロストガールと名づけられている若い女性。
彼女はポーランドにいてとある部屋に閉じ込められTVを観ては涙を流している。そのTVにはニッキーの姿も映るのである。
時間と空間が交錯し捻じ曲げられ幾層にも重なった世界が進行していくので物語がすんなり頭の中に納まることはできない。
デヴィッド・リンチはいつもこの難解さを問われる度、「なぜ映画を説明や言葉にしたがるのか。目で見たことをそのまま感じ取ればいいのだ」てなことを言っていて、それならもう誰も解析などする必要はないのだが自分も含めどうしても言葉に置き換えないと居心地が悪い人間が多いのだろう。リンチに逆らいもう少しストーリーを追ってみる。
ハリウッド女優ニッキーは期待していた『暗い明日の空の上で』の主役に抜擢される。だが、その映画はポーランド民話を元にした『47』という映画のリメイクだということを監督により知らされる。しかもその時は未完成のまま終わり、主役の二人は殺害されたという呪われた作品だというのだ。
ゾクゾクとするミステリーとホラーの出だしではないか。ごく当たり前に演奏して欲しいものなのだが、リンチは独自の奏法でなければ作品を弾きたくないのだろう。
TVの前で泣き続けるロストガールは呪われた作品『47』のヒロインで製作半ばで殺害されてしまったのだ。
ロストガールは無念さのあまり成仏できずその名の通り迷い子となって宙ぶらりんの部屋でTVを見て泣き続けている(成仏できない、という感覚が東洋趣味のリンチらしいところ。この部屋は『ツイン・ピークス』でのホワイトロッジのようなイメージなのである)
時間も空間も隔たった過去のポーランドと現在のハリウッドでロストガールとニッキーは同じ映画の主役という共通点で結ばれる。
ニッキーは現実と虚構の区別がつかなくなり様々な苦難に陥るがなんとか映画を撮り終える。
ニッキーと同化することで長年の無念を晴らせたロストガールは今度こそ迷うことなく昇天できたのだ(『ツインピークス』でも昇天の場面があったが)
ニッキーの行動がロストガールを救ったというのは間違いないことのようだが、ニッキーの存在とロストガールとの関係というのは観る人によって解釈がまちまちのように思える。
ニッキーはロストガールが作り出した幻想のように考える人もいるようだが、私はやはりニッキーという女性がいてロストガールを救ったのだと思う。
そしてこの映画の主題はロストガールの救助だけでなくローラ・ダーンと他の女優たちによって表現されている「女性」というものにあるのだ。
ローラ・ダーンはここで女優、妻、恋人、売春婦という役を演じ分けている。ある時は貞淑であり、ある時は道ならぬ恋をし、ある時は怒り狂い、ある時は恐怖に怯える。
彼女の周りに幾人かの女性がいて色々な考えを述べる。彼女はそれを聞いて笑ったり泣いたりしている。彼女が一人で考えているそのことを示しているのではないか。
彼女は自分の内面を深く探っていく。そこには考え付かないような怖ろしいもの、禍々しいものが潜んでいる。
遠くから近づいてくる姿が自分のものだったがその驚愕の表情の異常さに自分で驚いてしまうのだ。
彼女は自分が主演する映画を以前演じて殺されたという女性の存在が深く心に突き刺さっている。彼女の霊が心の中に入り込んでしまった。
ロストガールを救うため暗く細い廊下を通り抜けるのも自分の奥底に入っていっているようである。自分の内面がいかに暗くぼんやりとした灯りしかないものか。傷となった『47』の扉を見つけ傍に現れた男に驚き銃を向ける。だがいくら撃ってもきかない。それは彼女の心が生み出した恐怖なのだ。突然男の顔があり得ないカリカチュアと変貌する。
この顔は一体。これは前に映し出された彼女自身の驚愕の表情ではないか。
彼女によって撃たれたその顔は崩れ落ちた。
彼女はロストガールの部屋との中継点である兎の部屋の扉をあける。
そしてついにロストガールを救うことができたのだ。

ニッキーの家を訪ねて来た女性がいる。この女性は行動は結果を伴うが魔法も生まれると言う。その言葉通りとなったのだ。
そしてその女性が指差す明日の姿のニッキーは毅然とした美しい様子で微笑んでいた。

以前の作品と違い『マルホランドドライブ』そしてこれではさらに女性というものに焦点を当てて作られている。
ロストガールを救うのが王子ではなく同じ女性だということにも注目したい。そしてロストガールを救うことでニッキーもまた救われたのだ。

こうして考えても謎は多くあるのだが、引越しの挨拶に来た女性にニッキーは「殺人の場面はありません」と断言しているのに、映画のラストは殺害シーンだったのは何故。
また不思議な3匹の兎だがリンチ監督自身も兎の説明はできないと答えていた。
死と兎の関連性というと『ピノキオ』の黒い兎を思い出す。あれではピノキオが死にそうになった時、黒い兎が棺を運んでくるのだったが。

私はDVD鑑賞だったので比較的画面の粗さは気にならなかったが、大画面で観ると映像の粗さがますます不安定感を出したのではないだろうか。

監督:デヴィッド・リンチ 出演:ローラ・ダーン ジェレミー・アイアンズ ハリー・ディーン・スタントン ジャスティン・セロー カロリーナ・グルシュカ
2006年アメリカ

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posted by フェイユイ at 23:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 北米 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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