映画・ドラマ・本などの感想記事は基本的にネタバレです。ご注意を

2009年01月13日

『ブエノスアイレス 春光乍洩』王家衛

春光乍洩、.jpg春光乍洩2.jpg
Happy Together

何度も何度も観てやはり好きな映画だ。
美しく印象的な音楽と映像が細かく千切られて貼られていったモザイクのようなイメージの作品でどうしてこんなに悲しみのこもった作品となったのだろうか。
故郷とは逆さまの場所にある国を彷徨うウィンとファイを演じるのはレスリー・チャンとトニー・レオンだがウォン・カーウァイの物語の中で彼らは違う誰かになってしまっているようだ。

無論、この映画を単なる映画としてはもう観ることができない。レスリーという自分の心の底に深く沈んでいる思い出の人が映っているからで彼がどうやってウィンという人物を描き出し得たのか、この映画の中の彼は自分にとってウィンという他に変えられない唯一の存在である。
そしてまたトニー・レオン演じるファイの悲しみも愛も忘れることのできないものだ。
彼らは行き着くことのできない世界の果ての滝を目指し、そしてかなわなかった。
道に迷い彼らは到達できなかったのだ。
ファイが一人でなら行けた場所へ彼らがたどり着かなかったことが二人の運命だった。
彼らが手にしたのはくるくると回る偽もののような電器スタンドだけなのだ。

ウィンの魅力は怖ろしいほどだ。自分の美貌を知っていて男達が彼に求めているものを知っている気まぐれでどこかに留まるということを知らない。彼はいつまでも彷徨う魂なのだ。

ファイはウィンを愛し憎んでいる。ファイが最も幸せだったのはウィンが両手を使えないほどケガしていた少しの間だけ。わがままでぐうたらなウィンが彼に頼りきり、彼だけを必要としていた僅かの時間ファイは幸せだった。

ファイとウィンが狭いキッチンで踊る場面は切なく美しい。荒涼とした異国で頼れるのは二人だけだという寂しさともたれ合う甘い時間が感じられる。だがそれは一刹那でしかない。

そしてチャン・チェン演じるチャンの存在がある。彼もまた彷徨う魂なのだがウィンとは全く違う生きる力がある。
破滅を感じさせるウィンから逃れようとしたファイは生を感じさせるチャンに惹かれていく。
表面的なことだけで行動するウィンと違いチャンは目で見る物を信じず耳で心を感じ取ろうとする。ファイがふざけて「座頭市に似ている」と言うのがおかしい。目を閉じさせて似ている、と思ったのはウィンのことなのだろう。似ているがまったく違うのだ。

何度も観て何度も感じたことを書いているので同じようなことを言ってるかもしれないし、全然違うことを書いたかもしれない。
何度観てもいい映画だし、大好きな箇所がたくさんある。遠い国を放浪していることで感じられる物悲しさが大好きだし、病気のファイがお腹をすかせたウィンにせっつかれてご飯を作る場面なんかも好きだ。
モノクロと色褪せたカラーの映像、バースール、タンゴ、喧騒と静けさ、散りばめられた時間と記憶。
すべてがカレイド・スコープのように色と姿形を変えて繰り返される。
奇跡のような映画なのである。

監督:ウォン・カーウァイ 美術・編集:ウィリアム・チョン 撮影:クリストファー・ドイル 出演:レスリー・チャン トニー・レオン チャン・チェン
1997年香港
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2008年09月13日

『マイ・ブルーベリー・ナイツ』王家衛

My Blueberry Nights.bmpMy Blueberry Nights2.bmp
My Blueberry Nights

劇場で観た方々の評判からしてあまり期待してなかったのだが、これはもうなんだか自分にはたまらなく美味しい映画だったなあ。
まあ確かに『2046』や『花様年華』なんかと比べたら王家衛としては非常にシンプルで判り易い為却ってすんなり観れてしまって「なんだかもっと苦しめて欲しい」などとマゾ的な願望を持ってしまうのかもしれない。その上描かれたものはいつもお好きな美男美女ばかりの主要登場人物にどこを切り取ってもコマーシャルフィルムかポスターのような雰囲気たっぷりの美しい画面、しかもどこか今までの作品で観たことがあるようなシチュエーションが多い。鮮やかな色彩が溢れ、窓ガラスに映る光と文字。カフェで忙しく働く青年と悲しみを背負った美少女。破れた恋を心の中で語り、旅に出るエリザベス。
公開前、予告編を動画で観た時、これは『ブエノスアイレス』じゃないか、と思ったものだが事実観てみてそのとおりだった。『欲望の翼』のようでもあるし『恋する惑星』『天使の涙』みたいでもある。
まあつまりこれまでの作品を混ぜ込んでしかももっとシンプルで判りやすく器用に綺麗に仕上げた感じ、といえばナンだかあんまりよくないみたいだが、それはそれとして私は凄く好きになってしまったのだった。

夢中になって観だしたのはエリザベス(ノラ・ジョーンズ)がジェレミー(ジュード・ロウ)から旅立っていった後からである。
何か変わりたいと願って一人旅に出たリジーが頭をからっぽにする為、昼夜問わず働いてやがて自分の車を買おうと考えるくだりなんかがさっぱりとして好きである。今までの自分に苛立って旅に出るというと最近観た映画では『ヴァイブレーター』がよかったがあれが出会った男との触れ合いによって満たされていったのと比べると(それはそれで好きなのだが)こちらのリジーは1人っきりで旅をして何か変わっていくわけで案外こちらの方が普通っぽく自分もできそうな気がする。
旅の間のリジーは極端な冒険をするわけでないからスリルとサスペンスには物足りないかもしれない。男と喧嘩するのも博打も見ているだけなのだから。その分自分が旅をしているような共感を持つことが出来るのだ。
とは言っても美しい博徒の女性レスリー(!!!レスリー!!!)との出会いは心乱れるものがある。
レスリーは「人間を信じてはいけない」という。そのくせ金を貸して欲しいとリジーを口説くのだ。
何の保障もなく今までの汗の結晶2200ドルを渡してしまうリジーを見て騙された、と思ってしまった。すべて奪われた、と。つまり私は人を信じてないわけだ。
担保は新車のジャガーだというが他人のじゃないの、と思ったものだ。ところがレスリーは博打で負けて約束どおりジャガーをリジーに渡す代わりにラスベガスまで乗せてと言い出す。
奇妙な展開。
美女二人が車に乗ってラスベガスまで旅をしているなんていうのはあまり観たことがない。
しかも途中のホテルで一つベッドで寝ているし。
まあ何かあるわけじゃないがなにやらどきどきしてしまうじゃないか。
実はレスリーは賭けに勝っていたのに「一緒にラスベガスまで行ってほしかったからかも」と自分の嘘を認める。
約束どおり金を返してもらいリジーは自分の車を買う。
レスリー役のナタリー・ポートマンが抜群に美しい。王家衛がレスリーと言う名前を一番美しい女性につけたのは絶対偶然ではない。

「道を渡るために遠回りしてみてもいい」とリジーは1年間遠回りしてジェレミーの側に渡る。
まあこんなハンサムな男性が1年間ただ待っててくれるなんて誰も信じないだろうけどね。
ブルーベリーパイがとろりと甘く映し出され「これは甘い甘い話だよ」と言っているようである。
『マイ・ブルーベリー・ナイツ』そのタイトルどおり甘酸っぱい愛のお話なのだった。

ところでまあどうでもいいんだが上の写真にも映っている窓ガラスの場面。ガラスに「2043」と書いてある。「2043」?「2046」じゃなくて?と思ってよく見たら「BREADS」の「EADS」の部分がガラス越しに逆で見ると「2043」に見えた、というだけのことだった。
なーんだ騙された。

監督:王家衛 出演:ノラ・ジョーンズ ジュード・ロウ ナタリー・ポートマン デビッド・ストラザーン レイチェル・ワイズ
2007年香港/フランス/アメリカ
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2008年04月04日

レスリー・チャン『我』

著名作詞家の林夕、レスリー・チャンに書いた詞を悔やむ

レスリーの歌『我』は勿論大好きな歌ですし、忘れられない名曲の一つですが、同性愛をテーマにしていたのだとは知りませんでした。
確かにその通りですね。「私は私なのだ。」という歌でした。そして自分自身が好きなのだと。そういう意味を込めてレスリーは歌っていたんですね。
posted by フェイユイ at 19:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 香港 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年04月01日

レスリーが亡くなって5年が経った

レスリーが亡くなって5年の月日が経ってしまったんだ。

去年の今日は『ブエノスアイレス』を観たんだっけ。
今も手元にその映画の写真を持って眺めているんだけど、こんなにかっこいい映画って他にない。

レスリーがトニーによっかかって写真を撮ってるとこやらトニーの頭を抱きかかえているとこ、階段の壁にレスリーがもたれて上を見上げてる横顔なんかが凄いすてきなの。

今、別の人に夢中になってしまって言い訳してしまうんだけど、レスリーのことを思い出さないでいることはないよ。
いまだにカーウァイとレスリーの映画が一番好きな映画だもんね。
posted by フェイユイ at 00:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 香港 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年03月29日

胡軍、香港の今日中資格を取得

フー・ジュン a.jpg

中国俳優フー・ジュン、香港の居住資格を取得

何を期待していいのかよく解らないがとにかく期待してしまおう。

いまだに胡軍見るとどきどきしちゃうのさ。

捍東って思うんだろうけど、私はむしろ喬峯かなあ。
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2008年02月22日

エディソン、香港芸能界引退、他地域での活動か

「香港わいせつ写真事件」でエディソンが引退発表
このところずっと騒がれていたこの問題。私はエディソンにとても好感と期待を持っていただけにショックです。この前観た『ドッグ・バイト・ドッグ 』が素晴らしかったのに。
私はいまいち事情がよく飲み込めていないので詳しくはっきりとは言えないのですが、本当にいけないのは誰なのでしょうか。

一体どうなるのかと心配していたら、引退発表という結末に。
これがもう最終決着なのでしょうか。
無論、あってはならないことでこの答えしかあり得ないのでしょうね。
もし無理に続けても立場もないし、良心も傷つくばかりでしょうから。
とても残念でしかたありません。

と書いていたら今度はこんな記事が
「わいせつ写真事件」のエディソン、今後は他地域で活動か
決めるのはエディソンなのでなんとも言えませんが、この道をとるのかな、とは思っていました。
どちらにしても今しばらくは苦しむことになるのでしょう。私自身としてはエディソンに立ち直って欲しいと願うばかりです。
posted by フェイユイ at 11:15| Comment(4) | TrackBack(0) | 香港 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年12月09日

『楽園の瑕』王家衛

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東邪西毒/Ashes of Time

一体なんと言っていいのか。好き過ぎてどうしようもない作品である。すべての映画の中で1,2を争うのであるがもう一つは『ブエノスアイレス』だからどちらが上でもまあかまわない。理由は無論レスリー・チャンが主役であることとウォン・カーウァイ&クリストファー・ドイル&ウィリアム・チョン・トリオの仕事が素晴らしいからだ。
レスリーは全作品の中でも本作が一番美しいのではないかと思っている。ここまで口髭のセクシーな男はそういないし、この切なさ、狂おしさは壮絶な色香を漂わせ追随を許さぬ存在である。
果てしない砂漠に一人きり孤独の中で何かを待ち続ける姿にレスリー自身の姿を重ねてしまうのだ。

本作を予備知識なしに観た人は難解な作品だと感じてしまうだろうか。登場人物の説明はあるもののそれは言葉(字幕)によるものにすぎないのでなかなか頭にはいってこないのではないだろうか。というのは最初私がそうだったからなのだが。これは中国人なら殆どの人が読んだ事があるという金庸の武侠小説の登場人物から物語を作り上げているために人物説明は皆知っているものとして進んでいく感がある。だがそれが却って深遠で複雑な構成に思わせているかもしれないが物語を知っていればそう難しいわけではない。カーウァイ作品は知っていればちゃんと判る、という丁寧な(?)作りになっているのである。

幾つかの作品が参考になるが『射[周鳥]英雄伝』が主な登場人物である。最強の4人の老人東邪・西毒・北丐(南帝が省かれている)の若き日の物語を王家衛が独自に作り上げているのだ。
レスリーが演じる西毒・欧陽峰(欧陽鋒という文字だったと思うが映画では峰になっているのでそう書いていく)はその名の通り“毒”を操る達人である。性格は冷酷と言っていいが後に甥として面倒をみた我が子を溺愛する(ということはちゃんとマギーといたしていたわけか)しかしその子も薄命でやはり愛に恵まれない西毒なのである。
レオ・・カーフェイ演じる東邪・黄薬師。後に黄蓉が生まれるその島が愛した人の住んでいた場所でその名を取って桃花島と呼ばれる。というのは王家衛の創作か。しかも黄蓉がいた頃はその島は桃花で溢れていたので後にせっせと植えたのだろうか。最強なだけでなく学問や音楽にも秀でていて娘・黄蓉に英才教育を施す。邪という名前の通りへそ曲がりで人間嫌いな性格である。つまり西毒とどっこいどっこいなのだ。この最強で性格の悪い二老人が若い頃両方ともこんなにかっこよかったとは。といっても二人とも老人でも美貌だったが。
そしてジャッキー・チュンの北丐・洪七公(映画では洪七)は我が最愛の方なのであるが後に物乞いの長となり強大な勢力を持つことになるのだ。最強の中でも最も強い方だと思われる。(もっと強いのは周伯通だろうけどここでは出てこないので)本作でも女のために指を一本失い「九指神丐」と呼ばれる原因としている。妻を伴って旅を続けたり、と他の二人と違い人間味のある性格である。後にも東邪の娘・黄蓉の師匠となるなど慕われる人格であることがわかる。
ブリジッド・リン(すてき!)は燕国の名家・慕容家の兄妹、慕容燕・慕容媛を演じ分けているのだが、まさにブリジッドならではの役柄である。東方不敗の彼女に参ってしまったファンは多いだろう(私も)
きりりとした美貌は武侠ファンの憧れの存在である。そしてさらに彼女は独孤求敗でもある。これは剣の腕が人並みはずれて孤独となり負けることを求めている剣豪の名前である。
また慕容というと『天龍八部』での慕容復を思い出す。
そしてこれにこれは創作となるのだろうか、東邪の恋敵である盲目の剣士にトニー・レオン。本作で最もかっこいい役は彼である。次第に見えなくなっていく目で馬賊と戦い首から血飛沫をあげる最期に残してきた妻を思う。強い日差しがあるならなんとか敵が見えるという時に日が翳り視力を失ってしまう。最期に故郷に戻り桃の花を見たいといった言葉は妻の名前「桃花」を意味していた。
その妻役のカリーナ・ラウ。揺らめく光の中水辺で馬を洗う彼女の真っ白な素足が馬体をゆっくりと撫ぜていき白い腕でその首を抱きしめる。なんとも性的な描写なのである。彼女の美しさが盲目の剣士と東邪の心を引き寄せてしまうのだ。そして東邪は彼女の住む島に行き、西毒を訪ねる事もなくなってしまう。
西毒が愛したのは兄嫁となった美しい女性。西毒が愛するという言葉もかけず出て行ってしまったために彼の兄と結婚してしまう。だが彼女の心は西毒を離れることはなかった。西毒もまた彼女だけを愛し続ける。互いを思いながらも意地を張り続ける頑なな二人は会おうとすることもなく遠い昔を思い出しながら辛い恋心に悶え苦しむばかりなのだ。思い出を忘れることができるという酒「酔生死夢」を飲んでも彼女への思いが消え去る事はない。「一生結婚することはなく、愛も育たないという」西毒の悲しみは尽きることがない。

レスリー=欧陽峰は待ち続けるだけの役である。仕事は殺人の仲介人。恨みを持つ依頼人の話を聞き、殺し屋にその仕事を回す。彼は手数料を懐に入れるわけである。
何も育つ事のない砂漠はぎらぎらと太陽が照りつけ、ある時は激しく雨が降る。
荒涼としたその光景は彼の心そのままである。
愛しい人を置き去りにし、戻った時はすでに遅く、さらに長い間その女性のことだけを思いだしながら生きている。が、彼女を追い求めて行こうとはしない。
彼が剣の道よりも毒薬に染まっていくのもその歪んだ心を表しているようである。
とはいえ、愛する女性を思い、年に一度訪ねてくる友人を待ち続けながら風に吹かれ悲しい目をした西毒に心引かれてならないのである。
確かにこの前観た『セブンイヤーズ・イン・チベット』で友をハラーを待つと言った友の住居を思わせる。

仏典曰く 旗なびかず風なし 揺らぐは人の心なり

監督/脚本:王家衛 撮影:杜可風  美術・編集・衣装:張叔平  
出演:Leslie Cheung 張國榮 レスリー・チャン (欧陽峰)
Leung Ka Fai 梁家輝 レオン・カーフェイ (黄薬師)
Brigitte Lin 林青霞 ブリジット・リン (慕容燕・慕容媛)
Tony Leung 梁朝偉 トニー・レオン (盲目の剣士)
Maggie Cheung 張曼玉 マギー・チャン (兄嫁)
1996年香港
posted by フェイユイ at 23:57| Comment(5) | TrackBack(0) | 香港 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年12月04日

『孔雀』クリストファー・ドイル

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AWAY WITH WORDS

他と違う言語理解をするアサノは幼い時から疎外感を持ち、海に出る。彼は香港のとあるバーの孔雀を思わせる美しい青いソファーの匂いが気に入りそこに住み着いてしまう。
べろべろに酔わないと自分の家に帰れないというダイブ・バー店主でゲイのケヴィン、ぶつぶつとわけのわからない言葉をつぶやき続けるアサノを優しく見守る女の子スージーとの出会い。
アサノは二人とうまく言葉は通じないが奇妙な安らぎを感じるのだった。

ドイルらしい美意識とゲイ感覚が溢れるブルーの色彩の作品。アサノが住み着く青いソファーに寝転がってみたい気持ちになる。
記憶を自分の中に閉じ込めているアサノとすぐに記憶を失ってしまうケヴィン、そしてそんな二人の守護天使のようなスージー。

浅野忠信がとても彼らしいイメージで美しく撮られている。「どこへ行きたいかはわかっているのにそこへたどり着けない」男。言葉の通じない関係。なのにいつまでもそこに漂っていたいような不思議な気持ちいい感覚であった。

監督・脚本・撮影:クリストファー・ドイル 出演:浅野忠信 ケヴィン・シャーロック シュー・メイチン クリスタ・ヒューズ 久保孝典
1998年 / 日本/香港


ラベル:感覚
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2007年11月26日

『ドッグ・バイト・ドッグ 』ソイ・チェン

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狗咬狗

この映画の中のエディソンの魅力をどう表現していいか、わからない。
ただ生き延びる為だけに生きている。そんな生き方をしてきた男の話である。

光線が黄色っぽく覆っていて異世界の出来事のようでもある。香港で言葉の通じない(カンボジア人)青年と普通語を話す少女はゴミ捨て場の汚らしい小屋で出会う。
青年は劣悪な環境で生まれ育ち生きていく為に仲間を次々と殺すことで命をつなぎとめており、ここへも殺人のために送り込まれたのだった。少女は遠い場所(大陸のどこか)で生まれ母をなくし父親と香港のゴミ捨て場で生活をしていた。そこで彼女は父親に犯されながら生きていくしかなかった。
彼らがたとえ命を落としたとしても誰の関心を呼ぶこともなく涙を誘うこともないのだろう。彼ら自身がゴミ捨て場に運ばれたゴミでしかないのだ。生きていても死んでしまってもどうでもいい、そんな存在なのだ。
自分というもの以外何も頼るものもないふたり。賑やかで富める街のゴミ捨て場で出会った青年と少女には生きていく希望も価値もないのだろうか。

出会う者を皆殺すことしかできない青年がもう少しで手にかけようともした少女を殺さなかったのは少女が自分と同じ存在だったからなのだろうか。
青年が船の絵を描いた上に少女が男と女が手を握って乗り込んでいるのを描き加えて喜んだ時、青年はこの少女と行こうと思ったのである。

どこにも行き場はない二人の逃避行と心に傷を持つ若い刑事の救われることのない復讐が絡んでいく。
刑事は尊敬する父親の堕落に失望し刑事としても人間としても生きていく事ができなくなった惨めな存在である。その心のあり方としては殺人者である青年よりさらに人間性を失ってしまっているのだ。

彼らはまさに『犬』でしかない。彼らが出会い殴りあう様は野良犬が咬み合っている、その姿なのである。彼らのケンカの場面では犬の唸り声が聞こえている。
彼らの争いには何か特別なものが伴っているわけではない。国だとか組織だとか金銭だとか名誉だとかそういうものは何もないのだ。
彼らのケンカは単なる犬同士の咬み合いでしかない。彼らのどちらが勝ってもまた死んだとしても誰も何も思うことはない。ある者は無意味だと笑うだろう。また醜いと罵るだろうか。
最後に聞こえてくる『You Are My Sunshine』は胸に刺さるものがあった。


エディソン・チャンはノーブルといっていいほど綺麗な顔立ちなのだが、この獣のような青年をこれ以上ないほどの魅力で演じている。
少女は可憐で愛おしい。互いに言葉が殆どないのが効果的である。
歪んでしまった刑事役のサム・リー。相変わらず細身でしかも男らしくて素敵である。

『狗咬狗』というタイトルを見た時から観たくてたまらなかった作品だったが期待以上の出来栄えだった。
エディソンとサム・リーが主演だというのも観たい理由だったが、こちらも満足以上の素晴らしさであった。

こういう話は欧米ではちと無理であるだろうし、東南アジア・香港だからこそ作られる作品なのではないだろうか。
がつがつと食べ物を飲み込みながら殺人を犯す青年というキャラクターには身震いを覚える。

監督: ソイ・チェン 出演: エディソン・チャン サム・リー ペイ・ペイ ラム・シュー チョン・シウファイ
2006年香港



ラベル:暴力
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2007年11月11日

『2046』再び 王家衛

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2046

今更ながら感じているのだけど王家衛の作品というのはひたすら青臭くて子供っぽい映画なのである。
この辺を好きになったらもう入り込んでしまうし、駄目だったら何がなにやらさっぱり。てな感じになってしまう。
私としては恥ずかしいと思いながらもそういった青い時間を眺めていたくてつい観てしまうのではないだろうか。
「俺と一緒に行かないか」がキーワードになっているなんていうのがもうすでに子供の感覚なのであって主婦だったら晩御飯の用意もしなきゃいかんし洗濯物も溜めたくないしそんな言葉くらいでそうそう出かけられはしないのだ。と言っても作中のヒロイン達は全くついていってはいない。女はなにかとしがらみが多いのである。
「すべての記憶は涙で濡れている」ちょっと恥ずかしくなる言葉である。自分の記憶を覗いてみてもまあそんなに涙ばかりでもなく馬鹿馬鹿しいのやらただただおかしい奴もころがっているわけでこれなんかも若い時代になら書いてみたい言葉なのだ。

トニー・レオンがまるでセンチメンタルな男を代表するかのように終始悲しみを胸に抱いている。若い女を抱く時も別の女と話すときも彼の心に住んでいるのはかつて愛したただ一人の女性。許されない恋のために別れなければならなかったその人。
本作では新しい恋の相手としてチャン・ツィイーが登場する。彼女とはひたすら肉体交渉を持つトニーであったが、ひそかに本気で愛してしまうフェイ・ウォンとコン・リーには精神的つながりのみである。
本気の相手は精神だけ、浮気な相手は肉体のみ。男の愛の形が現れてしまったようだ。

私が最も同情してしまうのはカリーナだ。彼女が思い出して泣く相手はレスリーだから。
この中ではその説明はない。
知っているものは知っている。ただそれだけのことなのだ。

ミステリー・トレインのパートに木村拓哉が登場する。どういうものか彼の起用に不満を持つ観客が多いようなのだが私はなかなかよいのではないかと思っている。(日本人役なら金城武でもよかった、というか彼も観たかった、と思わなくもないが)
このSF的雰囲気の漂うトレインパートが結構好きなのだ。
1224−1225区間は寒いので相手を見つけて体を温めなければいけない。また数字遊びだがクリスマス期間だから人恋しくなるというところがまた子供っぽい。
フェイ・ウォンはアンドロイド役もホテルの娘役も可愛らしいが特にアンドロイドの彼女は素敵である。

トレインの中でアンドロイドが10時間後100時間後1000時間後と待っている。
小説を書き直そうとしてトニーが万年筆を止めたまま10時間後100時間後と待っている。1000時間後となったらどうしようかと思ったがさすがにそこまではなかった。

2046と言う数字は男の思い出の部屋の番号なのである。彼が愛する人のことを思い出す時その数字が浮かんでくる。
2046に記憶を探すことはできても彼がそこへ戻ることはもうできないのだ。
秘密の言葉は穴の中に封じ込められ誰にも知られることもない。

王家衛の世界は独特で秘密クラブのようでもある。会員でないとその扉は容易に開かない。
本作は今までの作品をすべて思い出させるようなつくりになっているのでそれらを知らないままに観た者にはますます判りにくいに違いない。知っている者ならその秘密を知っていることに密かな喜びを感じてしまうはずだ。
少しだけ登場するチャン・チェンなんて大好きな音を求めて彷徨う旅人なのである。

監督/脚本:王家衛 撮影:杜可風 美術:張叔平 出演:梁朝偉(トニー・レオン) 章子怡(チャン・ツィイー) 王菲(フェイ・ウォン)、劉嘉玲 (カリーナ・ラウ)木村拓哉、張曼玉 (マギー・チャン) 鞏俐(コン・リー)、チャン・チェン、ドン・ジエ
2004年香港/中国
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2007年11月09日

『花様年華』王家衛

花様年華y.jpg
In the Mood for Love

やはりどうしても好きなのだ。この光と影はどういうものなんだろうか。

王家衛・杜可風・張叔平の魔力にとりつかれてしまったらもう逃れられない。
アパートの部屋、薄暗い路地、ぼんやりと見える思い出の中の一場面。夢なのか本当にあったことなのか、今から起こる事の練習をしている二人。
初めはすれ違うだけ、いつの間にか糸が絡み合ってしまった。

互いに結婚している男と女。彼らの伴侶が不倫関係にあると知って自分達も、と思いながら二人は一線を越える事ができない。
女は夫の不倫を思って泣き、恋する男との別れを思って泣く。男にはどうすることもできない。

多分同じ物語を別の監督が撮っているのなら全く観ないのではないか。ここで観ているのは単なる過程ではなく大人であるはずの二人の危うさ、心の揺れ、二人で過ごす甘く切ない時の流れである。
やがて訪れる別れの苦しさが言葉としての説明ではなく幻灯で映し出されたような画面で感じ取っていくのだ。
離れてしまった二人が再び同じ時に同じ場所に戻ったのに運命は二人をすれ違うように仕組んだ。
男は遠い国の遺跡の柱に穴を見つけそこに想いを封じ込める。

登場するたびに違うチャイナドレスを着たマギー・チャンの美しさに見惚れ、トニー・レオンの悲しげな眼差しを見つめる。
画面には二人だけが映し出され互いの伴侶の姿は出てこないのが二人を余計印象づける。
二組の夫婦はあるアパートの隣同士に越してきたのだ。互いの伴侶のいない間に女は男の部屋に入り込むが大家たちが帰宅して徹夜マージャンを始め出られなくなる。
仕事を休み部屋に隠れ男が買ってきた食事をとる。それでもふたりがそれ以上の関係になることはなくただ一緒にいたいと思うだけなのだ。

解説で王家衛が「香港の役者はいつまでも子供の役をしたがるのだが、ここでは成熟した大人を演じてくれた」と言っているのだが、私にはむしろ王家衛こそ子供のような感覚なのではないかと思ってしまう。肉体関係を持たないから、というだけではないのだが二人の愛し方はまるで純粋な少年と少女のように思えるのだ。
それは大好きな『ブエノスアイレス』でも『欲望の翼』でも感じたことだが登場する役者たちはもう子供と言う年齢ではないのにいつまでも青い魂を持ったままのように見えるのだ。
それは悪いことではなく、私にはとても貴重な美しいものに思える。
そういう透明な感覚は他ではそう出会えるものではない。変わらないで欲しいと願うばかりだ。
マギーのチャイナドレスは肉感的というよりむしろ清楚に見える。ほっそりしていつまでも観ていたい美しさだ。

トニー・レオンが借りたホテルの部屋の番号はもちろん「2046」だった。

監督/脚本:王家衛 撮影:杜可風 美術/編集/衣装:張叔平
出演:梁朝偉、張曼玉 、藩迪華 、雷震
2000年香港
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2007年10月24日

『Hit2000張國榮Leslie』『FOREVER』レスリー・チャンMVを久し振りに観てみた

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レスリー映画を観てたら久々に歌も聞きたくなってというかMV観たくなって本当にひっさしぶりに鑑賞。しかし久し振りすぎてどれに何が入ってるやらもう判らないため手当たり次第に。

まず手にしたのが『Hit2000張國榮Leslie』(おお、さすがに「くに」と「えい」変換したらすぐこれが出たぞ)
やっぱ歌手のレスリーも素敵だワーと眺め懐かしい歌声に耳を傾ける。
特にお気に入りはDisc1では「03.Everybody」綺麗なお姉さまがたに囲まれたレスリーの色男ぶり。レスリーの顔はいいところが色々あるのですが眉の間が広いところが大らかな感じで好きなのだ。
とろけてしまいそうな二枚目である。
そして「06.取暖」レスリー温泉に入ってます。舞台は日本のようです。お布団に入ってまどろむ、というか一人である寂しさに悶えているレスリー。お風呂に入っても寂しそう。畳に正座してお花活けを見ながらうつむくレスリー。気になります。しっかし布団や温泉で悶々としてる様子がこれほど似合う方もいますまい。
つんととんがった上唇とくぼみが魅惑的。
「10.紅」上の二つは普通話だがこれは広東語独特の響きが何ともいえない。映画『色情男女』からのMVで色っぽい。

Disc2「02.怨男」隠微なムードがたまりません。
「06.追」映画『金枝玉葉』から。この歌も忘れられない一曲。

『FOREVER』より。このCD+VCDは全体に質が高いものであった。
名作。レスリーが監督したMV「夢到内河」日本人バレエダンサーの優美な踊りを見守るレスリーという同性愛的な雰囲気を出した演出。バレエダンサー西島氏のバレエも素晴らしい。やや上向き加減のレスリーの表情が凄くすてきである。
こういう映画を是非撮ってもらいたかった。
「大熱」レスリー作曲。私はこの歌とこのMVが一番好きで好きで好きで何回も観た。
歌も情熱的でカッコいいしMVの不思議な事と言ったら。
珍しい長髪のレスリーが色んなかっこうをして立って歌うのを撮ってるだけ。
まずどピンクの色彩をバックにシュールな服を着た若い男女が両側に立つ。アダムとイブと言うイメージのよう。
真ん中にレスリーがこれもピンクのシャツ着て長い髪をアップに結っているがさっとほどき強い視線を送る。風が吹いて長い髪が舞う。
恍惚とした表情。凄く綺麗なのだ。
レスリー赤い服ぶかめのズボンに着替え我が身を抱きしめて歌いだす。髪は風に吹きまくられている。
君への愛は炎のように燃え上がり別れる運命なら隕石がぶつかりこの世は木っ端微塵。世界戦争なんかどうでもいい、という燃え上がるまさに大熱な歌。
男女横顔が近づいた後、レスリー上半身は黒い網のシャツ。下半身は物凄くきわどい見えてしまいそうなパレオで激しく歌い続ける。
白いシャツ派手な模様の黒いズボンになり、それまでの服装が繰り返されるが三つ編みになるカットも入ってくる。高らかに笑う女。遠慮がちな男。
もう美しいと言うか隠微と言うかぞわぞわしてくるこの感覚はなんだろう。何回見直してもまた見たくなってしまう。不思議な映像なのである。この音楽、歌と共にレスリーの作品のなかでは絶対はずせない一作なのだ。
こちら→張國榮 - 大熱

そして同じくレスリー作曲の「我」
これも歌・MVともに素晴らしい一曲です。レスリーのハスキーな声が伸びやかに歌われていて広東語なまりのはいった普通話の歌ですね。
自分らしくありたいと言うレスリーの気持ちと映像による広大な世界の中の孤独感が感じられるのだ。

以上、膨大なレスリー作品の中のごく一部だが自分が好きなものを書いてみた。
彼が早く亡くなってしまったのは本当に残念で悲しい。
特にこれから映画を作ろうとしている時だったし。それが死の原因なのかどうかわからないのだけれども。
こうやって生き生きとしたレスリーの姿を見ているとなんという才能と美しさを持った人だったのか、とつくづく思う。
こうやって何度も映像を見返すことはできるのだけれども・・・やはり生きていて欲しかった。
彼に出会うことで私の人生は全く違う方向に向かったのだと思っている。

『Hit2000張國榮Leslie』と『FOREVER』は宝物。でもVCDなのです。同じような内容のDVDはないものでしょうか?

追記:ここで書いた『FOREVER』は最近発売された「永遠的張國栄LeslieCheungFOREVER」とは違うものです。以前買ったCD+VCDなのです。
「永遠的張國栄LeslieCheungFOREVER」.jpg
これが最近の「永遠的張國栄LeslieCheungFOREVER」ですね。素敵だー。
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2007年10月23日

『倩女幽魂 チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』チン・シウトン

チャイニーズゴーストストーリー.jpg

昨日はちょっとしんみりしてしまったので今夜は楽しいレスリーのでもやっぱり幽霊もの。

『聊斎志異』を原作にしてSFXを駆使したゴシックホラーアクションムービー。
といっても丁々発止で戦うのは倩女幽魂スー・シンと悪霊を退治するイン道士で主人公ツァイサンであるレスリーは可愛くおたおたもたもたしてるだけなのだ。
倩女幽魂スー・シンは荒れ寺に住みつき、ロウロウという悪霊女の手先となってその美貌で男を誑かしロウロウが男の精気を吸い取る手伝いをしていた。
集金に走り回る旅人ツァイサンは金も食べ物もなく雨に降られ仕方なく人も寄り付かないその荒れ寺に泊まることになる。
スー・シンの男を引き寄せる色香が幽霊ということもあってなんとも凄みのある美しさである。男に言い寄る様は嬉々としているようでいて殺される様子に涙をこぼすその両面が意味深な悪霊と思わせる。
レスリーの集金人の格好がこれは向こうでは普通のいでたちなのであろうか。屋根付きのしょい籠を背負って裾の長い着物と可愛い帽子。手持ちのまんじゅうだか食べ物はこちんこちんで歯が立たない。雨が降っても破れ傘、靴には穴が開き借金を書いた帳簿は雨で墨が流れ落ちているといった情けなさ。
でも人殺しに食べ物を恵んでもらっても吐き出してしまう潔さは持っているのだ。

悪人とそれを追いかける賞金稼ぎ、賄賂を求めてばかりいる裁判官という荒れ果てた時代。
道士インは世の中に嫌気がさして隠居してしまったのだった。幽霊の前では人であり、人の前では幽霊になるというイン。
一人修行をしながら「道!道!道!」と歌い踊るのが面白い。ちょっと口は悪いが心は優しく勇敢で腕の立つ道士なのだ。

ここでのレスリーはおっちょこちょいで臆病ででも正義の心と健気さを持つ貧弱な若者ではあるがとにかく可愛い。ひたすら可愛いのである。
倩女幽魂スー・シンもそんなツァイサンの可愛さに悪霊から人間に戻りたいと願ったのではなかろうか。
そしてやっぱりレスリーのラブシーンはすっごく色っぽいのであった。
頼りないツァイサンを水の入った桶に沈めたスー・シン。苦しくなって顔を出すツァイサンを沈めるためにキスをしながら息を吹き込むなんていう場面のレスリーの横顔のセクシーな愛らしさといったら。
この色っぽさって他の誰が持っているだろうか、いや持ってはいない(反語)
とにかくツァイサンは幽霊のスー・シンを抱っこすることも出来ないくらい力がないし(「お、重い」と言って落としたのでスー・シン思い切り嫌な顔になる。普通抱っこするでしょー)道士がいないと襲われるからと言って護衛を頼んだり全く弱々しいのだがここぞと言う見せ場では勇気をだして刀を刺したり、朝日を浴びてスー・シンが骨壷に戻れなくなるのを防ぐ為必死で窓を塞いだり一所懸命さが胸を打つ。

それにしても物凄いスピードで進む映画である。画面がどんどん切り変わるし判らん奴は置いていくぞっつー勢いで説明なしで突き進んでいく。
アクションもグロテスクも目を離したらあっという間に終わっているほど早い早い。
そしてラスト、香港映画独特の山場がすんだら「スー・シン、転生してるかな」でツァイサンと道士が虹の彼方へ向かって馬でぱっぱか。あっという間に終わってしまうのだった。うーん、この後味を残さない終わり方って他にないよね。爽やかですらある。

確か当時はレスリーというよりスー・シン役のジョイ・ウォンが話題だったのではなかろうか。
男を誑かして精気を吸い取る幽霊というのは中国ホラーでは定番だがやっぱり色っぽくていいものである。
そしてその幽霊から惚れられてしまうレスリーの愛らしさ。私的には幽霊美女よりずっとおたおたと可愛いのである。
たしかに幽霊も心を動かさずにはおられまい。
ちょっと馬鹿っぽい表情になっていてかまってやりたい気持ちになるのだね。相変わらず上唇がとがっているのがチャームポイントであるし。

色々な顔をもつレスリーだったがこの頼りない愛らしさもまた追随を許さぬものであった。
シリアスに美しいレスリーととぼけたキュートなレスリー、どちらも捨てがたい魅力なのだ。

監督:程小東 チン・シウトン 製作総指揮:徐克 ツイ・ハーク
 出演:張國榮 レスリー・チャン、王祖賢 ジョイ・ウォン 、午馬 ウー・マ
1987年香港

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2007年10月22日

『[月因]脂扣(ルージュ)』關錦鵬(スタンリー・クワン)

月因]脂扣(ルージュ).jpg

レスリーの映画は私にとって単なる作品と言うだけでなく色々な思い出や自分の気持ちが入り込んでいるのでその作品だけの感想、というのは言いにくい。
この作品は特にそれ自体はそれほど優れたものでないのかもしれないが私には思い出深いものがあり冷静には観れない。
だがこうして見返していてもレスリー・チャンとアニタ・ムイの他に比べようのない美しさ・雰囲気・存在感というものを強く感じて嬉しくなった。
レスリーの映画について語る時、どうしても涙がこみ上げてくるのを抑えることはできない。
今もう文字がかすんでしまうのだが、無理に抑えることなしに書いてみよう。

裕福な家の跡取り息子・十二少=チャンは遊郭で知った不思議な印象をあたえる如花=ユーファーと恋に落ちる。
阿片に身をゆだね愛し合う二人。やがてチャンは芝居の道に進みたいと言い出す。才能があるとは言えないチャンをユーファーは見守った。だが跡取り息子を奪われたとチャンの父母と婚約者が二人の中を裂いた。
別れられない二人は心中の道を選んだ。3月8日11時という数字を忘れないでと約束して。

1930年代の香港・遊郭で命を絶ったユーファーは現代(1987年)にこの世に蘇る。あの世で待ち続けたチャンと会えなかったのだ。
ユーファーは新聞社で知り合った若い恋人達ユンとチョウに助けられながらチャンとの再会を待ち望むのだった。

幽霊と時間の交錯を扱ったものは香港もしくは中国でとても好まれる題材ではないのだろうか。それはジェイ・チョウの作品にも感じられこの映画を思い出した。
とはいえ多分どの国の人々も時間を越え霊となっても愛する人を捜し求める物語には感動するものだろう。

アニタ・ムイの演じるユーファーは幽霊とはいえ特別な演出や映像処理で幽霊に見せかけてはいない。疲れると顔が青ざめるだけで普通の人間のように登場している。が、昔の遊女らしく動きがゆったりとしてしなを作る様がこの世の者ではないようで確かに気持ち悪く感じられる。幽霊の証明をするために「頭を取ってみせて」と言われたりリンゴをかじると黒い汁を口から流しリンゴもしなびてしまったというところが香港の幽霊なのだろうか。
それにしても30年代の遊女であるアニタの素敵なこと。独特の眼差しも真っ赤な紅を差したぽってりした唇も妖しい色香が漂いながらもどこかりんとしたところがあるのだ。
そしてそのユーファーが死んでもなお愛し続けた男がレスリー演じる十二少=チャンである。
冒頭、階段ですれ違う娘達に流し目をくれるチャンにすでにどっぷりと溺れてしまう。
裕福なお坊ちゃまで世間知らず。役者に憧れてもいつもユーファーに付き添われ甘えてばかりいる美しい横顔。
ユーファーが用意する阿片煙草を朦朧とした表情で艶やかに微笑む。

映画ではチャンはユーファーの後を追わず生きながらえてしまいユーファーから別れを告げられる。
だが現実ではレスリーが亡くなった同じ年アニタも亡くなってしまった。きっと天国で二人は出会っただろう。
現実の二人は恋人同士というわけではなかったがとても仲のよい友人、それ以上の深いつながりを持っていたと聞いたから。
この映画はそんな二人を思い出して苦しくなってしまうのだ。

現代でユーファーを助ける新聞社のユンを演じたのはアレックス・マン(萬梓良)香港映画では有名な男優である。
悪役のイメージが強いのかもしれないがここではとても優しい青年なのである。

私としてはこの作品の30年代の物語の隠微な雰囲気がたまらなく好きである。
遊郭の一室で阿片を吸い夢を見ている美しい女と男。
危険な香りであるのだが様々な映画の中でも忘れられない場面の一つなのである。

監督:關錦鵬(スタンリー・クワン)出演:梅艶芳(アニタ・ムイ)、張國榮(レスリー・チャン)、萬梓良(アレックス・マン)
1988年香港
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2007年08月08日

「かちこみ!ドラゴン・タイガー・ゲート」ウィルソン・イップ

I.jpgI.jpg

堪能、堪能。久し振りにカンフーアクション全開で楽しませていただいた。
香港では大人気のマンガが原作ということで知ってるのが当たり前、的な展開で物語自体が物凄いスピードだったが要は文句なしにかっこいいアクションを見せるが為のものなのでこれで全く問題無しなのである。

ニコラス・ツェー、ショーン・ユーという若手人気俳優がそろい踏みとはいえ勿論この作品はドニー・イェンのものである。
端正なマスクであり且つその武闘シーンの素晴らしさには目を離せない魅力がある。
あまりにもアクションが華麗である為、他の単なる「ケンカ活劇」とは異なりバレエの一作品を観ているかのようだ。
バレエなら物語は単純でいい。そして所々に見せ場がある。異国情緒溢れる日本料理店の場の狭い部屋を上から眺めて捉えていく動き。同じく狭い廊下での激しいタンブリングを駆使した攻撃。
ソフトボール球場での光に包まれた中でのアクション。こちらは広い空間を使って走りぬけていくスピード感が快感であった。
そしてラストの戦いの場面でドニー・イェン=ドラゴン兄貴のパワーが炸裂する。
いったいに兄弟の物語では兄が踏み台になって弟が活躍する話が多いものだが、ここでは弟はまだまだ若造の半端者。兄貴が最高にかっこいい男なのである。

話はいたってシリアスなのだがマンガのせいか香港という土地柄なのかそこここで思わず笑いがこみ上げてくる設定があってそこがまた香港映画の醍醐味でもあるのだが、主要人物3人が揃ってうざいヘアスタイルだし、ドラゴン兄貴なんて前髪全部前に下りててあれで見えるのか。ドラゴン兄貴は稲妻マークで恋人に「刺青して」って頼まれて彼女の肩甲骨のとこにも稲妻マーク入れちゃって変なものやられるよりいいけどあんまりストレートで笑える。
弟タイガーは星マーク。いくつかバリエーションあり。ちょっと恥ずかしい。でも足芸が得意っていうのはかっこいいね。蹴り一筋っていうのはステキである。
突如割り込んでくるよそ者ターボは蠍マーク。最後に「ターボはやめてレパード(豹)にしろ」って言われるんだけど、蠍マークなのに?わりと単純ではないのだ。ショーン・ユーの綺麗な顔が長髪に隠れてファンとしてはじれったいんでは。
ドン・ジエちゃんは相変わらず清純で一途な女の子で可愛かった。
敵の大将、仮面をつけてるせいで神秘性が出てよかったけど髪形で山寺宏一さんを思い出してしまう。龍虎門の師匠、ちょっと弱そうなのに強いというのがスゴイ。ケイ仙人、どんな方かと思ってたら、仙人というより漫画家みたいだった。絵、描いてたし(字?)ベレー帽の仙人・・・。
などという突っ込みも楽しく鑑賞を終えたのであった。何よりしびれるのはドニーのアクションそのもの(ハンサムなその顔もだけど)なのでこれは絶対観るしかよさはわからない。

監督:ウィルソン・イップ 出演:ニコラス・ツェー ドニー・イェン ショーン・ユー ドン・ジェ リー・シャオラン
2006年香港
posted by フェイユイ at 22:37| Comment(2) | TrackBack(1) | 香港 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年07月30日

「墨攻」ジェイコブ・チャン

nU.jpg

大変に期待した映画だった。久し振りに香港映画で観たいという気持ちが湧いたし、なによりそのキャッチコピー「10万の敵にたった一人で挑む」というのが一体どうなるのか素直にわくわくさせられた。実際観ると敵10万と味方も敵だというより困難なものであったが。

アンディ・ラウはあまり好きでなくて「インファナルアフェア」の時ですらそう素敵には見えなかったのだが今回初めてかっこよく見えた。しかもなぜかイチローに似てた(顔は全然違うのだが、なぜかそう見えた)
知る人には歴史的背景(服装・住居)がめちゃくちゃということでアンディ演じる革離なんかは短髪だしね。というのはあるんだろうが私はあんまり気にしないので。アンディの短髪は世間から外れ、ストイックで理性的な主人公を演じるのにはぴったりの外観だったと思う。

物語のテーマとなる「墨家」の「兼愛・非攻」は作中でわずかしか言葉にされていないがそういった言葉による説明ではなく出来事や行動で示されていて非常にうまく作られていた。
しかし空しいのは革離が「墨家」集団から抜け出して味方となった梁の国王より敵である趙の将軍(アン・ソンギ、かっこいい)の方がよほど革離の才能を認め敬意を持っているという現実(まあ、映画に中の)である。
息子である王子や民衆から人気を取ってしまったということで王の嫉妬を買ってしまうとは。作中に敵が趙の兵が言っていたがその嫉妬心まで計算できなかった革離がまだ甘かった、ということなんだろうか。
そういった虫唾の走る味方側の王や側近と尊敬の眼差しを見せる王子や弓の達人そして騎馬隊長である美女。敵から城を守りながらも結局難しいのは人間関係だったのか。

墨家という集団が実在ながら次第に姿を変え消滅しなければいけなかったのはその思想がやはり伝わり難く実現しにくいからなのだろう。どんな思想も永久に不変ということはないだろうが今まで知らなかったというのは面白い物語にはなりにくい為なんだろう(不勉強で知らなかっただけだが)
敵から仲間を守るためとことん戦い、終われば平和に暮らす、という話なら山のようにあるだろうが、思想として表し、弱者のところに駆けつけては守り抜き、兼愛の精神でもって次は敵側につくかもしれない守りのスペシャリストという発想が凄い(発想じゃなくていたわけだが)

マンガの絵がちょいと苦手なので原作である酒見賢一氏の小説も読んでみたい。
それにしても中国の故事を日本人が物語にし、また中国人が映画にしてるというのは楽しいことではないか。

監督:ジェイコブ・チャン 出演:アンディ・ラウ アン・ソンギ ワン・チーウェン ファン・ビンビン
2006年 中国/日本/香港/韓国

ちょっと前に少し書いたんだけど、最近香港映画で観たいのがたくさん。
問題はどのくらい日本版DVD化されるかだが。気になるのが多くて楽しみだが、いつ観れるかなあ。
ラベル:戦争
posted by フェイユイ at 20:55| Comment(1) | TrackBack(0) | 香港 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年07月20日

トニー・レオン「傷だらけの男たち」舞台挨拶

トニー・レオン、新潟県中越沖地震の被災者に励ましのメッセージ

トニーは災害が起きると義援金を送ったりしてとても徳の高い人だと感心します。新潟の地震被災についても心配りをするなど気にしてないとなかなかできないことだと思いますねー。

「傷だらけの男たち」(「キスだらけの男たち」って打ってしまった^^;)の秘話おもしろい。驚きです。

そして原題「傷城」(傷ついた街)の話。なんだかしんみりしてしまいますね。なぜトニーのインタビューを載せたかというとこれから書こうとしている「グッバイ、レーニン!」とこの話が関連していたからなんですよ。自分の住んでいた町が故郷がなくなってしまう、あるんだけど自分が住んでいた町とは違う、というのは体験した人でないと本当の気持ちはわからないんでしょうね。
トニーってやっぱり素敵です。

こちらも→映画『傷だらけの男たち』トニー・レオン舞台あいさつ
posted by フェイユイ at 20:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 香港 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年04月27日

「天使の涙〜堕落天使〜」王家衛

Vg.jpg

何をどう書いていいのかわかんない。だからと言って嫌なわけじゃなくて、それどころかやっぱり好きなんだけど。何をどう好きなのか、今は言えない(いつになったら言える?)

どうしたってウィリアム・チョンの美術とクリストファー・ドイルのカメラの魔術を先に感じてしまう作品なのである。
広角レンズで映しだされる人物と風景が幻覚を見ているようだ。
光と影、色彩、街、部屋の中、ミュージックボックス、すべてが物憂く気だるくていい。

レオン・ライが「恋する惑星」のブリジッド・リン。金城武がフェイ・ウォンで男女が入れ替わっているという説明が面白い。
掃除する女性という王家衛好みの場面もしっかり登場。掃除フェチっていうのもいるんだな。

ストーリー的には金城武パートが気になる。特にお父さんをビデオで撮りまくり、嫌がってたお父さんが後で一人喜んで観てるという。
あと居酒屋の斎藤さんとのやりとりも。
金城武はほんと可愛らしい表情で観てて楽しい。
バイクシーンも爽快だった。高層ビルが堕ちた天使たちを見下ろしている。

それとカレン・モクの金髪の女も可愛いね。

監督:王家衛 出演:レオン・ライ、ミシェル・リー、金城武、チャーリー・ヤン、カレン・モク、陳萬雷 、斎藤徹
1995年香港

原題「堕落天使」の方が好きだな。そのままでも日本語として通じるのに?解りやすいし。
posted by フェイユイ at 22:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 香港 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年04月14日

香港アカデミー賞、15日に受賞発表

香港アカデミー賞、15日に受賞発表

さてどうなるでしょうか。
ラベル:映画
posted by フェイユイ at 23:38| Comment(4) | TrackBack(0) | 香港 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年04月12日

ウォン・カーワイ初の英語作品、カンヌ開幕作品に?

ウォン・カーワイ初の英語作品、カンヌ開幕作品に?

ジュードとノラ・ジョーンズ。綺麗な感じですね。
また不思議な世界が観れるのでしょうか。
待ち遠しい。

My Blueberry Nights
posted by フェイユイ at 20:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 香港 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする