

第1次世界大戦、1916年7月1日、“ソンムの戦い”が始まったその日の早朝、僅か2時間の間に6万の兵士が死傷したという。
この作品はその戦いの始まる直前48時間の塹壕の中の若き兵士たちの行動や思いを描いている。
つまり戦闘場面というのは最後に僅かに出てくるだけで映像の殆どは狭い通路でしかない塹壕の中に限られている。
10代の少年である新兵たちと鬼軍曹(とまではいかないか)とややひ弱な印象の中尉が主な登場人物である。
遠い昔に観たロバート・アルトマンの『ストリーマーズ』を思い出した(遠い昔の事なので記憶違いでなければそれである)
ベトナム戦争を扱った映画だったが物語は兵舎の中のみで若い兵士たちが思いを語っていくという戯曲を映画化したものだった。
酷く惹かれた思い出があるが、本作でも48時間後に死に対面する若者達の青春を見入ってしまった(もしかしたら影響を受けているのかもしれない)
二つの作品の違うのは本作の方が後に製作されているのにも関わらず『ストリーマーズ』の方が同性愛についての悩みなどを語っていて観る者にショックを与える内容だったのだが、本作の方が時代が遡っているためとイギリス映画らしく落ち着いた渋い仕上がりになっている。綺麗な顔の少年たちが多く出てはいるが同性愛的とまではいかないだろうか。ほんのり匂わせていると深読みするものか。
主人公であるポールとエディに兄弟萌えを感じる方もいるかもしれないし、軍曹とポールの関係になにか感じさせるものもある。
登場人物の多くが10代の少年と思しき新兵たちでこれから死ぬかもしれない激しい戦闘を迎えさせるには忍びない。当人達もまだ戦いの何かは判ってはいないように見える。
そんな彼らを統率する役目がウィンター軍曹(ダニエル・クレイグ)である。多分上流階級である坊ちゃま然として神経質そうなハート中尉(ジュリアン・リンド=タット)と巧く折り合いをつけながら子供たちを指導していく。
少年たちの心の中には兵士として勇敢に戦うこと、或いは怯え逃げ出してしまうこと、思い出の中の女性(少女というべきだろうが)賭け事や仲間内の争いごとなどが様々に駆け巡っている。
少年兵達はいわば群像劇として描かれてはいるのだがその中でも兄弟兵士の弟の方、ビリー(ポール・ニコルズ)に焦点が合わせられることが多い。
彼は弟を戦場に連れて来てしまったと少し後悔している兄エディー(タム・ウィリアムス)をとても慕っている。そしてたった一度だけ二言三言言葉を交わしただけの郵便局の少女に恋をしている、そんな純粋な少年である。
そんな少年が命を賭けねばならない戦場の惨さを表現している。
塹壕の中、とはいえ、敵の攻撃を受け死んでしまう者もいる。その運命が襲ってくるのは偶然でしかないのだ。
偶然の中で彼らは若い命をなくしてしまう。砲弾で若い体はばらばらに吹き飛び微塵となってしまうのだ。
なんと戦争とは惨たらしく悲しいものなのか。
言動を軍曹から睨まれているダベントリー(ジェームズ・ダルシー)という少年がいるのだが、このような異常な事態で彼を責めることができるのだろうか。戦争という中では彼は確かに役立たずだろうが。
そして砲弾はいい者も悪者もなく飛んでくるのだ。なんの手立てもなく敵へ向かって進み続けなければならない兵士たちは一体何のために進んでいるのだろう。
若い兵士たちの群像劇だけに様々な若い俳優が出ているのだが上記以外にキリアン・マーフィ、ベン・ウィショーの姿を観れてとてもうれしかった(これに出てるとは知らなかった)キリアンはなかなかカッコいい印象の役であったのでファンなら観ておいて損はないかも。
しかし私は彼は置いといて、ベン・ウィショーに注目。ここでもうじっとしたちょっと根暗変人風で彼らしい。若い分だけさらに冴えない感じの中学生みたいでかなりカッコワルいのだがそこがよい。
実を言うと『パフューム』の変態主人公のベンがいつまでも脳裏を離れず最近もやもやとしていてでも彼の出演作品などそうないし(『レイヤーケーキ』は一応観てるので)ああ早くまた変態なベンが観たい、と思ってたら、まさかこんな所で会えるとは。予想もしてなかっただけに心臓が高鳴ってしまった(こんな役の人見て高鳴ってる人はそういないだろう。いるのか?)
肝腎の目的、鬼軍曹のダニエル・クレイグ。昨日の情けない役と違ってこちらはなかなか見ごたえあり。
妙に少年たちに物知り顔で近づいて同調しない所がよかった。おじさんにはおじさんの悩み苦しみがあるのである。
本質的にはダニエルは鬼軍曹ぽくも感じないけど(どちらかというと『バトルライン』のイメージがぴったり)昨日のがあんまり酷かったのでかなり楽しんで(って言う内容じゃない。すみません)観る事ができた。
監督・脚本:ウィリアム・ボイド 出演:ポール・ニコルズ、ダニエル・クレイグ、ジュリアン・リンド=タッド、ダニー・ダイヤー、ジェームズ・ダルシー、タム・ウィリアムス、アンソニー・ストラッチャン、シアラン・マクメナン、キリアン・マーフィ、ベン・ウィショー 1999年イギリス